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「プロ野球90年」作家・小川洋子さんが語るタイガース愛「掛布と結婚しようと…」

47NEWS / 2024年4月27日 10時0分

インタビューに答える作家の小川洋子さん

 今年で90年を迎えたプロ野球への思いを聞くインタビューシリーズ。「博士の愛した数式」などで知られる作家の小川洋子さんは大の阪神ファン。山あり谷ありのタイガースを応援しながら人生を歩む心情を語った。(聞き手 共同通信・藤原雅仁、石川悠吾)

 ▽どこの家庭にもあった風景

 幼少期は岡山に住んでいて、父が阪神ファンだったので、物心ついたときから家族みんなで応援していた。当時岡山でテレビ放送は巨人戦しかやっていなかったので、巨人―阪神を見るか、あとはラジオ。平凡な昭和の家庭というか、6時までは相撲を見て貴ノ花を応援して、6時になったらラジオをつけて、野球中継を聞きながら父親がビール飲んでいるみたいな、どこの家庭にもあった風景だった。


 阪神一筋なのは、幸福な子ども時代が根っこにあるからだと思う。父が喜ぶところを見たいから、阪神が勝つとうれしい。違うチームを応援するのはそんな家族の記憶を裏切る、父を悲しませるみたいな。


色紙を手にする小川洋子さん

 ▽ 掛布の結婚に「がーん」

 中学生、高校生の時に本気で応援していたのは掛布雅之。高校を出たばっかりの無名の選手で出てきて、すごく応援しがいのある選手だった。江夏豊とか、田淵幸一はいなくなっちゃったけど、掛布はずっとどこにも行かず、阪神にいてくれたので。
 今になって言うのは恥ずかしいけれど、高校3年生の時に、新聞に結婚したという記事が出ていて、がーんって。関西の大学に行って選手寮の虎風荘でアルバイトをして、掛布と結婚しよう、というすごい妄想を巡らせていたのが、一気にがらがらと崩れた。乙女だった時代ですねえ。


1978年のオールスター戦で3打席連続本塁打を放った掛布雅之=後楽園

 試合としてよく覚えているのは、江川卓がドラフト制度の隙を突いて巨人と契約した「空白の一日」が大騒動になって、江川が最初に阪神戦で投げた試合。まだ半分子どもですから「なんて大人の世界は汚いんだ」と。それで江川を打ち崩すわけですけれど、あれが一番記憶に残っていますね。

 ▽お母さんの気持ち

 日本一になった1985年は大学を卒業してすぐで、忘れもしないんですけど、9月に大阪で友人の結婚式に出席したら、誰も新郎新婦を気にしていない。こっそりラジオを聞いていたのかな。その日にランディ・バースが打ったんですよ。「バースが打った」というささやきがばーっと広がって。関西の人たちはすごいなと。当時は爽快で威勢のいい勝ち方だった。それ以降に3回優勝したけど、チームカラーは全然違った感じですね。


1985年の日本シリーズで3試合連続本塁打を放ったランディ・バース=甲子園

 昔は阪神が負けると腹を立てたり、エラーをした選手に「何やってんだ」と思ったりしていたけど、今はお母さん的な気持ちで、エラーした選手にこそ「明日頑張りなさいよ」と言ってあげたくなる。まさか、日本一になってほどなく低迷期に入ってしまうとは…。だから、あの時代が母親の気持ちになる前の修行だったのかな。タイガースファンの編集者と年賀状のやりとりでお互い慰め合っていたんですけど、長くファンを続けるというのは、山あり谷ありを経験して球団と共に自分も成長させてもらうってことなんですよね。
 浮気するっていうことは一度もなかった。もう一生阪神についていく。巨人はほっといても勝つけれど、阪神は私が正座して応援していないと負けてしまう気がする。そういう切なさを帯びているのかな。
 今は「推し」っていう言葉があるけれど、何か我を忘れて応援できる対象があるっていうのは、人生を豊かにしてくれると思う。甲子園球場に行って、数万人の人と一つの球を見つめて、同じ瞬間に飛び上がって拍手できる体験は特別なものですね。

 ▽言葉のない世界

 小説を書いていると、ずっと言葉だけの世界にいて、言葉で全てを表現しなくてはならない。野球を見に行くと、言葉がない世界なんですよね。そういう世界に触れるっていうのが、すごくリフレッシュできる。甲子園で阪神の練習を見学させてもらったとき、計算され尽くした動きで静かに行われていて感動した。言葉がなくても成立している。心と心が通じ合ってないとできない。作家はその言葉にできないことを書かなくちゃいけないので、ある意味対極にある人々ですね。
 そういうものに触れると、また人間を書きたくなってくる。親密な関係であればあるほど、ぺらぺらとしゃべらなくてもお互いを分かるし、理屈で相手を負かす必要もない。そういう関係をやっぱり書きたい。
 とっぴなようだけど、そういうものをダブルプレーの瞬間に感じたりする。球がピッピッといって二つアウトを取る。何も言葉を交わさないのに伝わり合っている。それを、人間関係に置き換えて受け取る瞬間がある。


1985年11月、球団史上初の日本一に輝き喜ぶ阪神ナイン=西武

 ▽応援し続けたい

 プロ野球に対して偉そうなことは言えない。一ファンとして、楽しませてくれればいい。基本の基本は、選手が体を鍛えて素晴らしいプレーを見せてくれること。ファンはそれに一番喜ぶし、お金を払って球場へ行く。極端な話をすれば、大谷翔平を見るために米国まで行ったってかまわないと思わせるわけでしょう。いろいろな問題もあるかもしれないけれど、基本さえ揺るがないでいてくれれば、野球を応援し続けたいなと思う。
 いい具合に5年おき、10年おきぐらいにビッグスターが出る。これは神様の配剤としか思えない。王貞治、長嶋茂雄がいて、江夏がいて、イチローがいて…。それとやっぱりライバルが必要ですね。大谷がこれだけ活躍していると、藤浪晋太郎はどうしてるんだ、とかね。そういういじましさもありますね。お母さんとしては(笑)

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