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【デンキのハナシ Vol.1】なぜいま電気が話題? エコだけじゃないその理由とは

バイクのニュース / 2021年2月9日 9時0分

バイクやクルマの世界では「EV化」が大きな話題となっていますが、その本質を理解している人はそれほど多くはないのかもしれません。

■「EVはエコだから」は本当?

「2035年にガソリン車の新車販売が禁止される」。そんなニュースを耳にし、驚きを覚えた方は少なくないかもしれません。「ガソリン車」にはハイブリッドカーも含まれるのか、中古のガソリン車も買えなくなるのか、バイクはどうなるのか、など、このニュースをきっかけにして様々な声が上がりました。

 ガソリン車規制の先にあるのがクルマやバイクの電動化、つまりはEV化であることは明らかです。しかし、「なぜクルマやバイクをEV化させる必要があるのか」という点についての議論は、意外にもあまり見られません。ガソリン車規制に賛成派の人も反対派の人も、その論拠は「個人の好み」だったり、そうすることで政府や特定の企業・個人が得をするのではないかという推測に基づく「陰謀論」だったりします。

 多くの人々の生活に直結する話題だからこそ、賛成・反対のどちらも含めた様々な意見が出てくるのは当然のことと言えます。しかし、そもそも「なぜクルマやバイクをEV化させる必要があるのか」という点について理解することが、健全な議論のためには必要なのではないでしょうか。

 前出で述べたように、この点についての議論があまり見られないのは、誰もがそれを自明のことと考えているからにほかなりません。つまり、「ガソリン車に比べてEVの方がエコだから」ということです。

1950年ごろから地球の温暖化が進んでいます

 1950年ころから、世界的に地球温暖化の危険性が叫ばれるようになりました。地球の平均気温が上がることで、海面が上昇し多くの陸地が浸水、さらには生態系が変化してしまうなどといった様々な影響が生じると言います。そして、その主な原因となるのが、「温室効果ガス」と呼ばれるもので、その最もイメージしやすい具体的な例が、クルマやバイクから排出される排気ガスです。

 地球温暖化に関するこれらの内容は、ガソリンの原料となる原油が近い将来に枯渇するかもしれないという話と合わせて、小学校や中学校で必ず学ぶものとなっています。一方で、太陽光発電や水力発電、風力発電に代表されるように、自然の力を利用して発生させることのできる電気は「再生可能エネルギー」と呼ばれ、地球環境に悪影響を及ぼしにくいエコなエネルギーとして認識されています。

 しかし、この「EV=エコ」というEV推進派の意見は、ライフサイクルアセスメント(LCA)という考え方によって、もろくも崩れ去ることになります。LCAとは、その製品が生産から利用、そして廃棄までを含めたトータルでの環境への影響を考えるというものです。

化石燃料で電気を発生させている限りEV車はエコとは言えないようです

 EVは、利用時こそ「ゼロ・エミッション(温室効果ガスを排出しないという意味)」ですが、主に火力発電所によって供給されるその電力や、心臓部とも言える大量のバッテリーの生産・廃棄を考慮すると、現段階ではガソリン車の方がエコロジーであるという研究結果が見られるのです。今後の技術発展の余地など、加味するべき要素は多くありますが、少なくともEVの方が確実にエコだとは言えないようです。

 このように、「エコ」を議論の軸にしている限り、「なぜバイクやクルマをEV化させる必要があるのか」という点について理解することは難しいと言えます。

■日本が「脱ガソリン車化」をしなければならない理由

「脱ガソリン車化」の動きは、日本に限った話ではありません。年々厳格化されるクルマやバイクの環境規制も含めると、日欧米、そして中国など、世界の主力市場のほとんどでこうした動きが進んでいます。国や地域ごとにその背景や思惑は様々ですが、日本について言えば「エコ」だけではない緊迫した事情があります。それは「エネルギー安全保障」上の問題です。

原油の40%はバイクやクルマ、飛行機や船などの動力になっています

 日本が資源の少ない国であることは、すでに多くの人にとって常識となっています。ここでいう資源とは、多くの場合「原油」を意味します。したがって、原油はほぼすべてを輸入に頼ることになります。

 輸入された原油は、およそ40%が火力発電の燃料などの熱源に、同じくおよそ40%がバイクやクルマ、飛行機や船などの動力源に、そして残りのおよそ20%がプラスチック製品や化学繊維などの原料となります。戦後の日本は、空前の経済成長を遂げ、世界第3位のGDPを誇る経済大国となりました。その一方で、日本は世界第3位の電力消費国家でもあり、世界第3位の新車販売市場でもあります。

 では、世界的に見ても大量に消費される電力やガソリン、そしてそれらのもととなる原油はどこから輸入されているのでしょうか。結論から言えば、アラブ首長国連邦を中心とする中東です。2018年時点で、実に88.3%もの原油を中東に依存しているのです。つまり、なんらかの事情によって中東からの原油輸入が困難となった場合、あるいは原油価格が高騰した場合、日本の経済活動は一気に混乱する可能性をはらんでいます。

EV化が進むと原子力発電所は必要不可欠になるのか?

 かつて原子力発電所が推進された時代には、こうした特定の国や地域へのエネルギー依存が問題視されました。いくつかの原子力発電所が建設された後は、原油輸入の中東依存率は減少傾向にありましたが、2011年の福島第一原発事故によって、今後原子力発電が推進される可能性は限りなく低くなり、その結果ふたたびエネルギーの海外依存が顕著となったのです。

 電気は原油に頼らない様々な発電方法があり、今後の技術発展によってよりクリーンかつ高効率な発電方法が開発される可能性があります。しかし、現代のほとんどのクルマを走らせるためのガソリンは、原油から精製するほかありません。つまり、多くの日本人がガソリン車に乗っている限り、国家存亡の手綱を海外に握られていると言っても過言ではない状態が続くと考えられるのです。

 もちろん、これは将来的な可能性の話であり、いくつかある「最悪のシナリオ」のひとつにすぎません。それでも、国家百年の計を考えたときに、エネルギー安全保障という視点は避けては通れないものと言えます。

※ ※ ※

 クルマやバイクのEV化は、誰もが身近に感じる話題でありながら、100年後の日本にも関わる壮大なテーマでもあります。にもかかわらず、「現在の話」と「未来の話」のように、さまざまな時間軸が混同したり、さまざまな立場の人間がポジショントークをすることで、議論が混迷を極めているというのが現状です。

 まずは、現状をしっかりと理解すること、それが健全な議論のために必要なことと言えます。

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