パラレルツインはヤマハの専売特許だった? ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.4
バイクのニュース / 2021年10月21日 11時0分
近年の2輪業界はパラレルツイン(並列2気筒)エンジンブームを迎えています。その基盤を作ったのはヤマハではないでしょうか。半世紀以上に及ぶ歴史を、ライターの中村友彦さんが解説します。
■半世紀以上に及ぶ、並列2気筒の歴史
近年の2輪業界はパラレルツインブームを迎えています(本コラム第3回目に掲載)。そしてこのブームの基盤を作ったのは、ヤマハではないか……と、私(筆者:中村友彦)は感じています。
何と言っても、1970年代以降の半世紀を振り返って、ふたつの気筒が左右に並ぶパラレルツイン(並列2気筒)の進化に最も熱心だったのは、ヤマハなのですから。もちろん、他メーカーも多種多様なパラレルツインを手がけて来ましたが、ヤマハほどの“執着心”は無かったように思います。
ヤマハ初のパラレルツインは、1957年に登場した排気量250ccの2ストロークエンジンを搭載する「YD-1」です。ただし、その頃の日本ではパラレルツインが単気筒と並ぶ定番エンジンでしたし、2ストロークを含めると話がややこしくなるので、以下の文章では4ストロークに的を絞って話を進めます。
■保守的で地味な印象を覆すために
まずは1970年前後を振り返ると、当時は世界中の2輪メーカーが歩調を合わせるかのように、排気量750cc前後のビッグバイクに注力した時代でした。そういった状況下で主導権を獲得したのは、量産車初の並列4気筒エンジンを搭載するホンダ「CB750フォア」とカワサキ「Z1」「Z2」ですが、2ストローク専業メーカーの矜持を示した水冷並列3気筒のスズキ「GT750」、ツインの新しい可能性を示したBMW「R75/5」やドゥカティ「750GT」、モトグッツィ「V7」「V7スポルト」なども、次世代への意気込みを感じるモデルでした。
動弁系はOHC2バルブ、1次減速はギア式だったが、1970年に登場した「XS-1」は、1950年代から1960年代に栄華を極めたブリティッシュツインを継承するかのような構成。エンジンの開発ベースは2ストロークツインの「350R1」
もちろんヤマハもライバル勢と同じ姿勢で、次世代を見据えたビッグバイク新規開発したのですが……。同社が1970年に発売した「XS-1」のエンジンは、1950年代から1960年代に栄華を誇ったブリティッシュツインを継承したかのような、650ccパラレルツインだったのです。もっとも、ヤマハ初の4ストローク車となった「XS-1」は、オーソドックスな趣向のライダーから支持を集め、十数年に渡って生産が続く長寿車になりましたが、ライバル勢と比較すると、保守的で地味な印象は否めなかったでしょう。
ちなみに、当時のヤマハはライバル勢を安易に追随したくはなかったようで、以後は全面新設計のパラレルツインとして、1972年に革新的な2軸バランサーと一体鍛造クランクを採用する「TX750」、1973年にはDOHC4バルブヘッドとサイドカムチェーンが話題を呼んだ「TX500」を発売します。もっともこの2台を通して、パラレルツインという形式に限界を感じたのでしょうか、1970年代後半のヤマハは並列3気筒や4気筒に着手し、1980年代に入るとツインの主軸はV型に移行することになりました。
■270度位相クランクの先駆者
「TX500」の開発から十数年の歳月を経た1980年代後半、ヤマハは久しぶりに“本気の”パラレルツインを世に送り出します。
ヤマハ製アドベンチャーツアラーの先駆車と言うべき「XTZ750スーパーテレネ」(1989年)。このモデルを基盤として生まれたワークス・市販レーサーの「YZE750T」「XTZ850R」は、1991年から1993年、1995年から1998年のパリダカールラリーを制覇
当時の2輪業界ではパリダカールラリーを原点とするアドベンチャーツアラーに注目が集まり、ヤマハはその分野の主軸を単気筒の「XT500」「XT600」系としていたのですが、フラットツインのBMW「R80G/S」「R100GS」や、Vツインのホンダ「XRV650」「XRV750アフリカツイン」、カジバ「エレファント650」「エレファント750」などに対抗するべく、1989年に「XTZ750スーパーテネレ」を発売したのです。そしてこの車両のパワーユニットにパラレルツインを選んだ背景には、もしかしたら、1970年代の技術を継承、あるいはリベンジという意識があったのかもしれません。
「XTZ750スーパーテネレ」のエンジンは、長きに渡って停滞していた感があったパラレルツインを、イッキに進化させたと言うべき構成でした。デビュー時に大きな注目を集めたのは、「FZ」や「FZR」譲りの水冷DOHC5バルブヘッドですが、パラレルツインという枠の中では前傾シリンダーやダウンドラフト吸気も革新的な機構でしたし、上下割りのクランクケースでありながら、クランク/ミッションメイン/ミッションカウンターの3軸を三角形に配置したことも、当時としては先進的な要素でした。
そのうえ、「XTZ750」の大幅発展仕様となるパリダカールラリー用ワークスマシンの「YZE750T」は、1991年から前代未聞にして斬新な270度位相クランクの導入を開始したのです。もっとも、ヤマハが量産車に270度位相クランクを投入したのは1995年型「TRX850」からですが、パラレルツインのクランク位相角は360度と180度の二択、という既存の概念はヤマハによって打ち破られ、2000年代以降はホンダやBMW Motorrad、トライアンフ、アプリリア、ロイヤルエンフィールドなども、パラレルツインに270度位相クランクを採用することになりました。
初代スーパーテネレとなったXTZ750のクランクが360度位相だったのに対して、2010年に登場した2代目のXTZ1200は270度位相を採用。バランサーは2軸式だが、この写真ではウォーターポンプとオイルポンプギアの駆動を兼務する前側の1軸しか写っていない
さて、そんなわけでパラレルツインの発展に尽力して来たヤマハですが、現在のラインナップを見ると、このエンジン形式に特化している気配はありません。とはいえ、「MT-07」や「XSR700」、「テネレ700」、「YZF-R25」、「YZF-R3」や「MT-25」、「MT-03」などを走らせていると、私自身は、「やっぱりヤマハのパラレルツインはいいなあ……」と感じることが少なくないですし、おそらく、近日中に発売が始まる「YZF-R7」も、同様の印象を抱かせてくれることでしょう。
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