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伊藤若冲に横山大観、岩佐又兵衛……皇居三の丸尚蔵館で新春にふさわしき「めでたい日本美術」を浴びる

文春オンライン / 2025年1月11日 11時0分

伊藤若冲に横山大観、岩佐又兵衛……皇居三の丸尚蔵館で新春にふさわしき「めでたい日本美術」を浴びる

《宝船「長崎丸」》江崎栄造 大正5(1916)年

 新年を迎えたのを機に、多少なりとも縁起を担いで運気を呼び寄せたい……。そんな気持ちを抱いている人におあつらえ向きの展覧会が、皇居東御苑内・江戸城三の丸にある皇居三の丸尚蔵館で開催中の「瑞祥のかたち」展だ。

宝船に乗って蓬莱山を観に行く

 場所柄から推察できる通り同館は、皇室に受け継がれてきた6000点以上の品々を、収蔵・管理・公開する施設。今展はその中から選りすぐり、新春らしさ溢れるありがたい宝物の数々で展示を構成している。展名にある「瑞祥」とはめでたい兆候、すなわち吉兆のことである。

 さて会場には、どんな作品が並んでいるのか。順を追って巡ってみれば、まず出くわすのが宝船だ。日輪に鶴を描いた帆が風をはらんで膨らむ様子までをも、鼈甲細工で精巧に表現した《宝船「長崎丸」》(江崎栄造作)。大正天皇へ長崎県から献上された逸品で、船上には農産物や水産加工物など長崎県の物産27種がぎっしりと積載されている。

 続いて見られるイメージは、蓬莱山である。古代中国で不老不死の仙人が住むとされ、水晶の林の中に瑪瑙、琥珀、金、銀、白玉の楼閣が見え隠れし、珍奇な鳥獣や草花も生息するという。日本では古来、めでたき吉祥の図として描かれてきた。

 狩野常信《蓬莱図》は江戸時代の作で、大亀の甲羅に乗った州浜から蓬莱山が天へ伸びるさまを描いて、神々しさを感じさせる。山の上方を抑えた彩色にするなどして遠近感を付け、蓬莱山のスケールの大きさを演出している。

 同じく江戸時代の作品で、岩佐又兵衛の筆となる《小栗判官絵巻》巻八上にも、蓬莱山の偉容が登場する。絵巻自体の内容はといえば、貴族の子として生まれた主人公・小栗と関東の豪族の娘・照手による、壮大な恋愛物語だ。

 巻八上では、無断で婿入りした小栗を照手の父が宴に招いて殺害しようとするという、サスペンスドラマさながらの展開が用意されている。クライマックス場面の描写で座敷の広縁には、蓬莱山をかたどった岩山を背負う大亀のつくりものが、どんと置かれているのだった。

 この巻物は明治時代、かつて岡山藩家老だった池田長準が、広島滞在時の明治天皇に献上して皇室所蔵となったものである。

 会場を奥へと進むと、「鶴は千年、亀は万年」のフレーズでもおなじみのポピュラーな縁起もの、鶴と亀をかたどった作品が出てくる。加藤龍雄による《岩上鶴亀》は銀を鋳造した置物で、大正時代に後の昭和天皇である皇太子裕仁親王結婚を奉祝して贈られたものだった。

伊藤若冲、横山大観の力作と対面

 展示空間の奥のほうに、ひときわ華やかで鮮やかな絵画作品が掛かっていた。伊藤若冲の《旭日鳳凰図》だ。

 遠目に見ても近づいても事物がくっきり浮かび上がってくるような繊細な描写が全体に施され、多彩だが抑えた色合いが画面に調和をもたらしている。激しく波が打ちつける岩上に竹が茂り、そこに超然と佇んでいるのは雌雄の鳳凰である。

 鳳凰は古代中国で麒麟、亀、龍とともに「四霊」とされた架空の生きもの。その神秘さを、江戸時代を代表する絵師のひとり伊藤若冲は、渾身の筆さばきで表現し尽くしている。時を忘れて見入ってしまう一枚だ。

 四霊の一角を成し慶兆のシンボルとされる麒麟も、会場で見つけられる。十二代 酒井田柿右衛門による《白磁麒麟置物》は、ムラなくつるりとした白磁の一色で、麒麟の凜とした聖性を表している。

 勇壮で力強い守護神として崇拝されてきた唐獅子の姿もある。大正から昭和にかけて関東陶芸界の重鎮として活躍した二代 宮川香山の《青磁青華唐獅子文花瓶》は、花瓶の胴部分に唐獅子を堂々と描く。睨みをきかせながら絡み合う唐獅子の姿は、躍動感に溢れている。

 さて会場の最奥部に据えられているのは、昇る朝陽に照らされ優美な稜線を浮かび上がらせている霊峰・富士山を描いた大作。横山大観の《日出処日本》だ。

 昭和15(1940)年に開催された「紀元二千六百年奉祝美術展覧会」に出品するため、力の限りを尽くして描いたものとされる。大観は生涯に2000点近い富士山を描いたが、本作は最大級サイズの力作である。展覧会後に昭和天皇へ献上された。

 改めて画面と対峙すれば、富士山のシルエットはじつに美しい。江戸時代の噴火でできた宝永山という中腹の盛り上がりなどは描かず、理想化された姿ではあるが、もちろんそれで構わない。あるべき姿・ありたい姿のままに表現できるのが絵画や美術のいいところなのだから。

 会場で究極の日本美を一身に浴びて、我が身に吉を呼び込みたいところである。

INFORMATIONアイコン

瑞祥のかたち
皇居三の丸尚蔵館
1月4日~3月2日
https://pr-shozokan.nich.go.jp/2024inviting-fortune/

(山内 宏泰)

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