片岡愛之助が「夢にも思わなかった」 坂東玉三郎の相手役で学んだ “自分なりの芸”を追求する大切さ
CREA WEB / 2024年4月20日 11時0分
歌舞伎座「四月大歌舞伎」で上演中の『夏祭浪花鑑』で浪花の侠客・団七九郎兵衛を生き生きと演じている片岡愛之助さん。愛之助さんがこの役を9年ぶりに演じたのは2022年9月、大阪松竹座での「大阪文化芸術創出事業 歌舞伎特別公演」でのことでした。
その流れを汲む大阪国際文化芸術プロジェクト「立春歌舞伎公演」で、愛之助さんが今年2月に演じたのは『源平布引滝』の木曽義賢と斎藤実盛。「義賢最期」、「竹生島遊覧」、「実盛物語」の三幕構成による上演でした。
『源平布引滝』三場連続上演が夢だった理由とは
「『義賢最期』と『実盛物語』はそれぞれ単独で上演されていますが、『竹生島遊覧』を目にする機会は稀です。この三場を通してやるのはずっと夢でした。そうすることによって物語がよくわかり、戦に明け暮れる日々の中で源氏と平家それぞれの思を実感することができるからです」(愛之助さん・以下同)
物語の流れをごく簡単に説明しましょう。平家優位の状況の中、ダイナミックな立廻りの末に孤独で壮絶な最期を遂げる源氏方の木曽義賢は、ある理由があって館を訪ねて来た小万という女性に、源氏の白旗を死の直前に託します(「義賢最期」)。
義賢の奥方・葵御前のもとへと急ぐ小万は、琵琶湖を泳いで渡っている途中で平家方の実盛が乗る御座船に遭遇します(「竹生島遊覧」)。
葵御前を匿っているのは小万の父である百姓・九郎助で、その家に平家の侍がふたり姿を現します。その一人が実盛で「竹生島遊覧」での白旗にまつわる出来事の伏線がここで回収されるのです(「実盛物語」)。
「歌舞伎では長い物語の一部を単独で上演するスタイルも一般的なのですが、そうすると初めてご覧になるお客様には何が起こっているのかわからないというようなことが、どうしても起こります。それでは不親切ですよね。いろいろなエンタテインメントがある現代ではお客様の歌舞伎離れを引き起こしかねません。お客様にそうした弊害を少しでも取り除いて楽しんでいただける機会を意識してつくるようにしなければ、というのは常々考えていることなのです」
愛之助さんの心を占拠しているのは「大好きな歌舞伎の魅力をより多くの方に知っていただきたい」という思い。そして演じ手としては経験を重ねるほどに歌舞伎の奥深さや面白さに気づかされていると語ります。
愛之助さんが松嶋屋代々ゆかりの演目である『廓文章 吉田屋』で坂東玉三郎さんと共演したのは2023年3月のこと。それは愛之助さんにとってかけがえのない貴重な経験となりました。
「大和屋のおにいさんのお相手役をまさか自分がさせていただくなんて夢にも思っていませんでした。ですから、とにかく驚きました」
坂東玉三郎との共演で知ったこと
演じたのは大坂の商家の若旦那・藤屋伊左衛門で、上方独特の和事という芸が必要とされる柔らか味のある役柄です。愛之助さんは2012年の「新春浅草歌舞伎」で一度だけこの役を演じた経験があります。
「その時に仁左衛門の叔父に教えていただきました。ですからお手本は叔父のやり方なのですが、伊左衛門の恋人である夕霧のお役を十三世仁左衛門に教えていただいたおにいさんは、十三世のように演じてほしいとおっしゃったんです」
映像を取り寄せて勉強をしてみると、十三世に習った仁左衛門さんもやり方には違うところが多々あったのだそうです。
「ご当代は長い年月をかけてご自分なりの伊左衛門をおつくりなったということです。まず習ったことを忠実にやることが大切。ですが人間が違えば持ち味も違います。習った通りただなぞるだけでなく自分に合ったやり方を追求することでよりお客様に楽しんでいただけるものになっていくのです。十三世は1994年に亡くなっていますからその舞台をご覧になったことのないお客様はたくさんいらっしゃいます。
自分が今それをやることによってお客様にはまた違ったものをお見せすることができますし、これからこのお役を受け継いでいく若手にとっては選択肢が増えます。おにいさんにはその大切さを教えていただいたように思います。自分自身だけのことでなく歌舞伎を未来につないでいく上で重要なことだと思い、おにいさんには本当に感謝しています」
若手歌舞伎俳優の登竜門と言われている「新春浅草歌舞伎」でこの役を演じた頃と違い、愛之助さんは今や中心となって歌舞伎界を引っ張っていく立場のひとりなのです。その現在があるのは、若手時代の「新春浅草歌舞伎」での経験が礎となっているのも事実です。
2023年1月、愛之助さんは歌舞伎座で『弁天娘女男白浪』の弁天小僧を勤めました。弁天小僧は白浪五人男と呼ばれる盗賊のひとりで、この時の五人男は、中村芝翫さん、市川猿之助さん、中村勘九郎さん、中村七之助さんという顔ぶれでした。少し年上の芝翫さん以外は「新春浅草歌舞伎」で切磋琢磨しあった仲間です。
「かつての浅草のメンバーが歌舞伎座の初春公演で顔を揃えることになり、感慨深いものがありました」
その思いは浅草時代から彼らの舞台を観続けて来た観客も同じです。経験を重ね成長していく歌舞伎俳優を追い続けることで観客は次第に鑑賞眼が養われ、観劇の愉しみはより豊かなものとなっていくという側面があるのです。こうした功績が評価され令和5年度芸術選奨 文部科学大臣賞を受賞した愛之助さんの活躍ぶりは、歌舞伎という伝統芸能ならではの味わいがあることを示唆してくれています。
「同じ演目でも主役だけではなく人が違えば雰囲気は変わりますし、やり方も微妙に異なります。また同じ人でも時を経ることで違った味わいも生まれます。ですからこの演目は観たことがある、で終わりにせずに幅広く長く歌舞伎を愛していただけたらと願っています。それによってより深いところで歌舞伎の面白さを味わっていただけるはずです」
6月、愛之助さんは御園座「坂東玉三郎特別公演」に出演します。演目は昨年8月に玉三郎さんのお相手役を勤め好評を得た『怪談 牡丹燈籠』です。
文=清水まり
写真(インタビュー)=佐藤亘
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