大病からの復帰は30年前、3月で80歳になった仁左衛門の舞台から「老い」を感じることはない
日刊スポーツ / 2024年4月22日 7時0分
今の歌舞伎で最も集客力があるのは片岡仁左衛門(80)と坂東玉三郎(73)のコンビでしょう。孝夫を名乗っていた当時の「孝玉(たかたま)」コンビで一世を風靡した時代からもう50年が過ぎていますが、その人気は衰えることを知りません。4月の歌舞伎座で、仁左衛門が鬼門の喜兵衛、玉三郎が土手のお六という小悪党の夫婦を演じる「お染の七役」、そしていなせな鳶頭と芸者に扮しての舞踊「神田祭」の演目が並ぶ夜の部は、チケットが完売の日もあるほどの人気ぶりです。
仁左衛門の鳶頭姿に、もう30年前になる舞台を思い出します。94年1月の歌舞伎座で上演された「お祭り」です。仁左衛門は92年12月に京都で緊急入院しました。大葉性肺炎から膿胸と食道亀裂の大病を患い、一時は生死の境をさまよいました。集中治療室での治療が1カ月も続き、入院生活は8か月にも及びました。そして、大病からの復帰舞台が1月の歌舞伎座で、49歳の時でした。
開演前から満員の客席には異様な熱気があふれ、登場前から観客の拍手がさざ波のように起こり、仁左衛門が姿を見せると、それが大きな拍手の塊となって劇場全体を包み込みました。清元の演奏が始まっても、拍手はしばらく鳴りやみませんでした。その時、取材で客席にいたのですが、背筋がゾクゾクするほどの感動を覚えたものです。
4年後に15代目片岡仁左衛門を襲名。「寺子屋」の松王丸、「吉田屋」の伊左衛門、「元禄忠臣蔵」の徳川綱豊など当たり役は数多く、2015年に人間国宝、18年に文化功労者になりました。3月で80歳となりましたが、仁左衛門の舞台から「老い」を感じることはありません。奇跡のような舞台を見せ続けてほしいものです。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)
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