東急が事業化、アパレルバイヤー向け卸売ECの未来像とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年3月11日 20時59分
東急(東京都/堀江正博社長)が日本国内のアパレル店バイヤー向けに海外ブランドのECサイトを開設、ファッション卸売のサービスを始めた。そこには、どのような狙いがあるのだろうか。事業提案者の1人でプロジェクトリーダーの荒川真梨氏に話を聞いた。
海外ブランドの仕入れをもっと簡単に
2023年秋に開設された「makepre(マケプレ)」は、海外ファッションブランドのアパレル、バッグ、シューズなどを仕入れられるB2B向けの卸売ECプラットフォームだ。グループ全従業員を対象に実施されている東急の社内起業家育成制度で選ばれ、事業化された。
事業提案したのは東急モールズデベロップメント(TMD)の荒川氏と石山賢氏、SHIBUYA109エンタテイメントの崔有梨氏。それぞれSHIBUYA109でリーシングやMD(商品政策)などの業務を経験してきた3人が、たまプラーザテラスのマネジメントオフィスで出会って意気投合。荒川氏と崔氏は、新興ブランドの発掘・育成を目的にテーマにあわせて商品を変えるSHIBUYA109の「IMADA MARKET(イマダマーケット)」で、30~40の韓国ブランドを取り扱っていた。その際、ブランドとの接点を持つことに苦労した経験が、バイヤーを支援する「makepre」のサービスにつながったという。
「海外ファッションブランドと接点を持つ方法は、SNSやネットで検索をしたり、現地の展示会を回ったり、詳しい人に紹介してもらったりと、地道でアナログなやり方しかない。実際に取引するのにも、DMを送ったり、飛び込み営業をしたり、手間と時間、コストがかかる。それでいて確実に取り扱いできるかというとそうではなく、成功するときもあれば、失敗することもある。そこで、もっと簡単かつ手軽に取引できないかと考えて生まれたのが『makepre』」(荒川氏)
事業を創造する意欲・能力のある従業員を支援する東急グループの社内起業家育成制度ではこれまで、会員制サテライトシェアオフィス事業や定額制の回遊型住み替えサービスなどが事業化されてきた。「makepre」は9つ目の事業化案件で、ファッション・貿易に関する事業が選ばれたのは初めてだったという。
4つの観点で韓国ブランドを選定
実証実験の第1弾として取り扱うのは、日本未公開を中心にした韓国の約30ブランド。2024年6月までを実証実験として成果を検証、ゆくゆくは取り扱いブランドのエリアを広げ、日本のバイヤーと海外ブランドの双方を支えるサービスに育てていくことを目指すという。荒川氏は取り扱うブランドについて「4つの観点から選定している」と話す。
「1つ目は本国での実績。すでに韓国である程度の知名度があり、百貨店への出店や路面店があるようなブランド。2つ目はストーリー。デザイナーに語れるポイントがある、サステナブルにこだわって開発されたなど、人や商品の物語性を重視する。3つ目は知る人ぞ知る。スタートアップのブランドを中心に集めているので、これからフォローが現れそうだとか、一部の人に知られ始めたとか。そして4つ目が、まだ日本で展開していない、ポテンシャルを秘めたブランドであること」(荒川氏)
ブランド出店に関してはソウルに本店を置く新世界百貨店が運営するオンラインB2Bファッションプラットフォーム Kfashion82と連携して行い、貿易輸出サポートに関しては韓国政府機関のKOTRA(大韓貿易投資振興公社)と連携し、韓国ブランドが安心して商品を出品できる体制を整えた。そして2023年末現在、31ブランド、およそ1000アイテムを「makepre」を通じて仕入れられるようになっている。
ターゲットは20代~30代。ブランドの上代価格は、アウターが1万~10万、ワンピースが1万~5万、カットソーが5,000円~3万、バッグは1万~5万、シューズ1万~3万と幅広い価格帯のものを取り扱っている。利用は会員制で、登録できるのは法人のみ。東急グループ以外にも門戸を開き、百貨店、セレクトショップなどに加えてEC事業者も、転売目的などではなく、きちんと事業を営んでいることが確認できれば、広く受け入れる方針だという。
3年後は2か国を加えて300ブランドに
会員登録は無料。商品輸入の輸入申告や税関審査といった煩雑な手続きは「makepre」が代行する。かかるコストは商品代金、物流費、関税・消費税と明確だ。荒川氏は「現状では与信管理の都合などで個人事業主は対象にしていないが、将来的には個人の方にもサービス提供の幅を広げて、海外ファッションブランドの窓口といえば『makepre』と言われるような存在になっていきたい」と意気込む。
会員登録したバイヤー向けには年2回の商品展示会を開催。2023年10月25日と26日に開催された展示会では「韓国ブランドをベンチマークしている企業がかなり増えていて、数多くのブランドを一度に見られると喜んでいただけた」と荒川氏。次の展示会は2024年3月13日と14日に渋谷での開催を予定している。
一方、韓国ブランド側にも海外での展開を視野に入れているところが多く、荒川氏は「日本のマーケットと接点が持てる良い機会で、日本のバイヤーに商品の説明を直接できたことは大きな収穫だという声が多く聞かれた」と振り返る。
「makepre」で人気が出れば、東急グループの商業施設に誘致して店舗を構えることも見据えているというから、ブランド側にはさらに大きなビジネスチャンスとなるメリットも見込めそうだ。
商業施設におけるアパレルの販売比率は低下傾向といわれるものの、ショッピングのシーンではまだまだファッション関連がメインといえる。「私自身、ファッションが好きだし、心の豊かさを与えてくれるものだと感じているので、もっとファッション産業を盛り上げたいという気持ちがある。気になるブランドの仕入れが便利になり、ユニークな商品の取り扱いが増えていくことで、売上増や業界の底上げにつながることを期待している」
今後の目標としては、「当面は韓国を中心に考えているが、3年後は2ヵ国を加えて、300ブランドくらいを集めたい」と話す。欧米も視野に入れてはいるものの、特にASEAN諸国に勢いを感じており、タイ、ベトナムなどのブランドに注目しているそうだ。東急グループのリテール部門やテナントに限らず、ファッション業界全体の仕入れのハブ的な立ち位置を担うことになるかもしれない「makepre」。大きなうねりを生み出しそうな、意欲的なチャレンジといえるだろう。今後の動向を注視していきたい。
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