生体内の酸化還元反応における"電子の運び屋"役のタンパク質エネルギー獲得のための生物共通の電位制御の仕組みを解明―水素原子1つが司る"ナノスイッチ機構"の発見―
Digital PR Platform / 2024年12月2日 14時5分
茨城大学応用理工学野の海野昌喜 教授、宮崎大学医学部の和田啓 教授、大阪大学大学院基礎工学研究科の北河康隆 教授を中心とする東京薬科大学・久留米大学・CROSS・JASRIの研究者らとの共同研究グループは、すべての生物がエネルギー獲得のために必要な酸化還元反応における「電子の運び屋」タンパク質の電位コントロールの仕組みを明らかにしました。大強度陽子加速器施設(J-PARC)内の物質・生命科学実験施設(MLF)の茨城県生命物質構造解析装置(iBIX)を使った実験を基に水素原子を含めた精密な立体構造を決定し、そのデータを使った理論計算により鉄硫黄クラスターの電子状態を可視化しました。その結果、鉄硫黄クラスターの電位は、水素原子一つの有無によって劇的に変化する、いわば“ナノスイッチ”機構があることを初めて明らかにしました。
本研究成果は2024年11月15日に国際科学誌『eLife』※1(オンライン)にPreprint版が掲載されました。
■ポイント
・生体内で起こる反応の多くは「電子」の移動を伴い、このような反応を酸化還元反応といいます。例えば、呼吸や光合成も酸化還元反応に分類できます。これらの電子の移動を助けるタンパク質の中には鉄と硫黄を含んだものがあります。
・生体内で「電子の運び屋」として知られているフェレドキシンは、その内部に鉄と硫黄のかたまり(鉄硫黄クラスター)を保持した小さなタンパク質です。フェレドキシンはほとんどすべての生物に存在すると考えられているユニバーサルなタンパク質ですが、これまで、フェレドキシンが電子を安定に運ぶ仕組みは謎に包まれていました。
・本研究では、中性子線を使った実験で、原子の中で一番小さな水素原子が見えるレベルで、フェレドキシンの精密な立体構造を明らかにすることに成功しました。中性子での精密な構造決定は非常に難易度が高く、タンパク質の立体構造のデータベース(Protein Data Bank; PDB)全体の0.2%以下しか報告例がありません。
・実験で得られた水素原子の位置情報を含んだ理論計算によって、フェレドキシンの中の鉄硫黄クラスターの電子状態を調べました。その結果、鉄硫黄クラスターから離れた位置にあるアミノ酸残基(アスパラギン酸64番)が鉄硫黄クラスターの電子の授受のしやすさに大きな影響を与え、フェレドキシンの電子の受け渡しを制御するスイッチとなっていることを初めて明らかにしました。さらに、その機構が様々な生物において共通であることを示しました。
・この成果は、生体反応の科学的な理解を深めるにとどまらず、将来的には酸素や窒素の超高感度センサーや新規薬剤の開発への大きな手掛かりになることが期待されます。
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