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生体内の酸化還元反応における"電子の運び屋"役のタンパク質エネルギー獲得のための生物共通の電位制御の仕組みを解明―水素原子1つが司る"ナノスイッチ機構"の発見―

Digital PR Platform / 2024年12月2日 14時5分



■研究手法
 現在、タンパク質の立体構造を原子が見える解像度で解析する手法としてX線結晶構造解析法(1962年ノーベル化学賞)やクライオ電子顕微鏡法(2017年ノーベル化学賞)が一般的に使われていますが、これらの手法は原子の中で一番小さな水素原子を同定するのには適していません。また、本年(2024年)ノーベル化学賞を受賞したタンパク質の構造予測アルゴリズム(AlphaFold)でも、現段階では正確な水素原子の位置を予測することは不可能です。そこで本研究では、水素原子をタンパク質中の他の原子と同程度の明確さで同定することが可能な中性子結晶構造解析※4法を利用しました。
本研究では、フェレドキシンの結晶を非常に大きく育てるという高いハードルを克服した上で、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)※5の物質・生命科学実験施設(MLF)内にある茨城県生命物質構造解析装置(iBIX)※6で根気よく中性子を使ったデータを収集しました。
 さらに、実験的に精密に決定した立体構造情報を用いて、量子力学・量子化学に基づいた理論計算(密度汎関数理論)によって鉄硫黄クラスターの電子の状態を調べました。得られた結果の検証は、遺伝子を細工してフェレドキシンの中のアミノ酸1つを改変した変異体を試料とし、空気による鉄硫黄クラスターの酸化を防ぐために酸素を極限まで排除したチャンバーの中での実験により進めました。

■研究成果
 本研究では、分子の中に4つの鉄と4つの硫黄のクラスター([4Fe-4S]型クラスター; 図1)をもつフェレドキシンの立体構造を中性子結晶構造解析により決定し、鉄硫黄クラスター周辺の水素も含めた原子の正確な位置を実験的に明らかにしました(図2)。鉄硫黄クラスター周辺の水素原子の実際の位置は、これまで予測されていた位置とは異なることがわかりました(図3)。その正確な水素原子の位置を踏まえて、鉄硫黄クラスター周辺の電子状態を理論計算により求めたところ、鉄硫黄クラスターに由来する電子は、鉄硫黄クラスター周辺だけなく、1 nm(ナノメートル = 0.000001 mm)以上距離が離れた部位にあるアスパラギン酸64番まで拡がって分布していることを初めて発見しました(図3, 図4)。(1 nmはタンパク質分子の中の距離としては長くて直接相互作用はできません。)興味深いことに、この電子の拡がりは、アスパラギン酸64番の側鎖(カルボキシ基:-COOH)の水素原子がないとき(-COO-)のみに観られ、水素原子があるとき(-COOH)には、電子は鉄硫黄クラスター周辺のみに分布することがわかりました(図4)。実際に、鉄硫黄クラスターが酸化される速度と酸化還元電位を測定することで、アスパラギン酸64番が鉄硫黄クラスターの反応性に大きく影響していることを証明しました。フェレドキシンには複数のアスパラギン酸が含まれていますが、そのような現象が見られたのは、64番目のアスパラギン酸だけでした。さらに、種々の微生物に由来するフェレドキシンにおいても、同様の立体的位置にあるアスパラギン酸残基が鉄硫黄クラスターの電子状態に影響を与えることも明らかにしました。
 本研究では、離れた位置にあるアスパラギン酸側鎖の水素原子一つの有無が鉄硫黄クラスターの電子状態を変化させる"ナノスイッチ機構"が存在することを世界で初めて明らかにしました(図5)。また、このナノスイッチ機構は、古細菌でも保存されていることを証明し、生物界で広く利用されていると考えています。

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