1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. プレスリリース

地下深部の極限的な環境に常識外れな古細菌を発見-メタン生成古細菌がメタン生成能を失う適応進化-

Digital PR Platform / 2024年6月13日 20時5分


次に、このMmcXの電気化学特性を調べるため、固体との電子授受研究のモデル微生物であるシュワネラ属菌にMmcXを異種発現させて、解析を行いました。その結果、MmcXは、還元的な固相から電子を受け取る高い能力は有するものの、酸化的な固相に電子を渡す能力を持たないことが分かりました(図3)。これらの研究データを踏まえ、国際共同研究グループは、このMmcXの電気化学的特性とメタン生成経路の欠失、水素利用能の欠失などを総合的に勘案し、Met12は外界の還元的鉱物などから電子を受け取り、二酸化炭素を還元して酢酸を生成する「電気駆動型の酢酸生成古細菌」であると結論付けました。この代謝経路は、メタン生成古細菌の系統目では全く新しいエネルギー代謝様式となります。


さらに、国際共同研究グループはMet12様の古細菌が「ザ・シダーズ」特有の進化なのか、他の蛇紋岩流体にも存在するのかを調べるため、七つの陸域・海洋域の蛇紋岩流体のメタゲノムデータを調査しました。その結果、大西洋中央海嶺の「ロストシティー」や南西インド洋海嶺の「オールドシティー」、ニューカレドニア沖の「プロニー湾熱水域」などの海洋域の蛇紋岩流体には、Met12様の古細菌が広く生息しているものの、陸域の蛇紋岩流体には「ザ・シダーズ」を除き、存在しないことが明らかになりました(図4)。これらのMet12様古細菌のゲノムもまた、Mcrおよびメタン生成反応に関与するタンパク質群、ヘテロジスルフィド還元酵素が欠落していることが確認できたため、メタン生成反応の欠失は、海洋性もしくは、沈み込む海洋プレートの影響を強く受けた陸域の蛇紋岩流体への適応に共通する特徴であると考えられます。
これらの結果に基づき、Met12とその近縁種を古細菌の新たな属候補として「Candidatus Serpentinarchaeum spp.」として提案しました。


今後の期待
蛇紋岩化反応が起きる陸域・海底下の地質環境は、初期地球や初期火星、また、エンセラダスの類似環境であるとともに、強アルカリ性・超還元的な極限環境です。「ザ・シダーズ」で湧出する蛇紋岩流体に生息する特殊な微生物の代謝や生存メカニズムを明らかにすることは、マントルと生命圏との関わりや、初期地球の生命進化プロセスの解明、地球外生命探査に貢献することが期待されます。
今回、「ザ・シダーズ」の深部蛇紋岩流体で見つかったメタノセラレス目古細菌は、メタン生成能を失うのみならず、水素が大量に存在する環境において、還元的な鉱物から効率的に電子を受け取って酢酸を生成する特異な代謝機構を有していることが分かりました。さらに、この古細菌は、ザ・シダーズだけでなく世界中のさまざまな蛇紋岩流体に生息していることも明らかとなりました。このメタン生成能や水素利用能を失うという一見、常識外れな適応進化も、この極限環境においては、最適で、必然の適応だったと考えられます。今後、この微生物の環境適応戦略や進化メカニズムの詳細を明らかにすることで、炭素固定経路の起源・進化や多様性の謎を解く手掛かりがつかめるかもしれません。さらに、このような特異な進化を遂げた微生物の遺伝資源としての活用も期待されます。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください