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【インタビュー】「パスト ライブス 再会」セリーヌ・ソン監督が語った、“沈黙の力”と愛の描き方、人生における時間にまつわる考察

映画.com / 2024年4月4日 13時0分

 そしてセリフもまた、観客が「生涯忘れたくない」と、大切にしたくなるものばかり。物語の大枠だけを見ると、幼なじみのノラとヘソン、そしてノラの夫アーサー(ジョン・マガロ)が、三角関係にあると感じるかもしれない。しかし観客は、ソン監督が紡ぐセリフの数々とキャスト陣の名演によって、互いを理解し尊重する、成熟した大人3人の、より大きな愛の物語だと悟ることになる。ソン監督にとって、思い入れのあるセリフを聞いてみた。

 「セリフはどれも自分が書いた大切なものなので、ひとつを選ぶのはとても難しいのですが……。あえて言うなら、演者次第――演技によって、私のなかに強く印象づけられたものが、いくつかあります。ひとつはノラが言った『私はただの“韓国から来た少女”』というセリフで、グレタ・リーの演技が印象に残っています。またジョン・マガロが演じてくれたアーサーの、『僕は君を理解していることを、分かっている』という趣旨のセリフ。あのシーンも彼の演技が素晴らしかったと思います。そして、ユ・テオ扮したヘソンの最後の『また会おう』というセリフも、私が思い描いていた通りに演じてくれたので、とても気に入っています」

 なかでも印象的だったのは、アーサーがノラに、「知ってるかい? 君の寝言は韓国語だけ」と伝えるシーン。ノラは夢のなかで、アーサーには理解できない韓国語を話し、自分だけの世界を漂っている。このエピソードは、愛するということは、自分が相手を理解するだけではなく、理解できない場所もあると受け入れることだと、静かに伝えている。言葉にすることは簡単だが、並大抵の覚悟ではできない愛し方であるともいえる。

 「これは私のエピソードというより、キャラクターから自然と湧いてきたエピソードで、ノラとアーサーが深く愛し合っていると伝えたかったんです。ですが、ただ『互いに愛し合っている』と伝えても、観客の皆さんに理解していただけないので、どのようにして伝えるかを考えました。そこで、『彼は彼女のことをより深く愛したい、理解したい』という発想から生まれたシーンです。『彼女により近づきたい、つながりたい』というアーサーの思いを感じとってもらえたらと思いました」

 物語は、「もしもあの時こうしていたら……」という人生の分岐点についての普遍的なテーマを描き、多くの観客の共感を集めた。そのなかでも、本作ならではの“新しさ”というのは、愛の成就の喜びや喪失感ではなく、「どんな選択をしたとしても、相手を理解し、大切に思い続ける」という愛の形を描いたところにある。自分の人生で同じような出来事を経験した人々が、今後の人生を前向きに歩んでいけるような力をもらえる物語になっているのだ。ソン監督は、「誰かとデートすることを描いたものではなく、愛について描いたもの」とも解説している。

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