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映画を自分ごととして〈わかる〉〈おもしろい〉ってどういうことだろう? と考えた「異人たち」「異人たちとの夏」「94歳のゲイ」【二村ヒトシコラム】

映画.com / 2024年5月4日 20時0分

▼「異人たち」を観てわかった、「異人たちとの夏」のセクシーさ

 「異人たち」を観た直後に「異人たちとの夏」を観た僕は、30年前とはちがう、自分でもびっくりする、ある感想を持ちました。このコラムでは3つのことを述べようと思うのですが、1つめがその感想です。

 「異人たち」を観た感動が残ってるそのままの意識で「異人たちとの夏」を観たら、いや片岡鶴太郎めっちゃエロいな、色気ありすぎだろと思ったんです。原田がまだ子どもだったころに死んだ父ですから、若いお父さんです。下町の寿司職人で清潔感がある幽霊。いなせで気ッ風(きっぷ)のいい完成した江戸っ子なのではなく、いなせで気ッ風のいい江戸っ子になろうとイキがっているうちに死んでしまった若パパ。プライドがたかく意地っぱりで、同じ店で長続きしない愚かな男。その愚かさがセクシーです。自分が男から見てセクシーであることに気づいていない男、まったくもってノンケな既婚者です。

(ところで「異人たち」でアダムがお父さんを初めて見つけるシーンも、じつにヘイ監督っぽくエロくてゲイっぽい空気でした。ジェイミー・ベルは片岡鶴太郎のような色っぽい役作りではないのに)

 そしてお母さんの幽霊は秋吉久美子ですから、こちらも色っぽい。男に媚びる色気じゃなく、はすっぱな少女のような色気。ところが父さんから溢れる色気をジィッと見つめている原田は、いまの自分より若い母さんの色気からは目をそらします。近親相姦タブーを感じたからでしょうか。そんな恥ずかしがっている中年の原田を、お母さんの幽霊は子どもあつかいして距離をつめてくるんです(このへん日本の母とイギリスの母のちがいなのかもしれないですが、アダムの母はアダムにこんなにベタベタしません。「異人たち」には後述する別の重要なドラマがあるからというのもあるんですが)。母さんのスキンシップに、原田はまるでおびえているようです。

 きわめつけが「異人たち」ではばっさりカットされた、永島敏行が演じる間宮というキャラクターです(原作の小説にはちゃんと出てきます)。この男もゲイではないんですが、原田に友情ではなく、恋としか言いようがない情を抱いてるんですよ。僕の深読みではなく、はっきりそう描かれていたと感じます。そしてクライマックスからエンディングで重要な役割をつとめます。

 そういう視点で観ると「異人たちとの夏」の欠点だと昔の僕が感じた、怖がらせるべきシーンがなぜ怖くないのか、なぜ中途半端だったのかも、わかるような気がします。原田はノンケなのに、女性からしっかり愛されることが怖いんです(そういうノンケ男性はたくさんいると思います)。離婚したのも、奥さんが愛想をつかして出ていったのではなく原田が奥さんに適切に甘えることができなかったからなのでしょう。

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