映画を自分ごととして〈わかる〉〈おもしろい〉ってどういうことだろう? と考えた「異人たち」「異人たちとの夏」「94歳のゲイ」【二村ヒトシコラム】
映画.com / 2024年5月4日 20時0分
性的マイノリティと呼ばれる人を主人公にした映画を観て、僕は、おもしろいと思うことが多いです。この連載で過去に紹介した「大いなる自由」や「キャロル」や「リプリー」や「苦い涙」や「卍」は、主人公の性別やセクシュアリティや嗜好や性格ややってることが僕とちがっていても、僕は、主たる登場人物の感情や行動のどこかに、自分ごととして思い当たるところがあると感じられた。だから(もちろん、どれも映画としてすばらしかったからでもありますけど)どれも、おもしろがれた。おもしろがると同時に〈マイノリティであること〉についても僕なりに思いを馳せることができました。
「ブロークバック・マウンテン」も「怪物」もそうでした。「ブロークバック・マウンテン」は観ると僕は毎回かならず泣きます。それらの映画はもしかしたら、同性愛者自認やマイノリティ自認がない観客でも感情移入できるように調整して監督が撮ってくれたのかもしれません。あるいは、それらはある意味〈派手な〉映画だからなのかもしれません。
ところが映画によっては「わかる」「おもしろかった」って感想を言うと怒られちゃいそうだという気がする映画があるんです。これは具体的に誰かから怒られるって話ではなく、勝手に自分の中に〈怒ってる人〉を僕が作っちゃってるんですが、その人は僕の心の中で僕に向かって「お前に、この主人公の何がわかるっていうんだ」って怒ってる。登場人物たちが「これはあなたの物語じゃないんです。われわれの物語なんです」って小さい声で言っているような気もする。
「ムーンライト」がそうでした。すばらしい映画でした。「月の光の下で黒人の子どもの肌が青く光るんだ」というセリフは、観てから何年かたつんですが、ずっと心に残っています。けれど自分ごととして「わかる」とは言えなかった。だから「おもしろかった」とは言えなかったのです。
そして「異人たち」も、そっちのタイプの映画のような気がしたのでした。アダムの痛みは、僕が感じたことがあるどんな痛みともきっとちがっていると思えるからかな。同じヘイ監督の「WEEKEND ウィークエンド」は、主人公じゃないほうのゲイの男がやってることが〈わかる〉と感じられたのもあって、おもしろがれたんです。シリアスで地味な映画なんですけど「ウィークエンド」は、おもしろいと思っても僕の中の人は怒らない。「ウィークエンド」のほうが「異人たち」よりも男と男のセックスシーンが濃厚だったからかな。
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