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【特別対談】山田尚子×新海誠が語り合う、創作論から監督ならではの悩みまで――

映画.com / 2024年8月30日 12時0分

 新海:だいぶ変わってきたように思います。いま挙げていただいたエピソードは、90年代にゲーム会社に勤めていて、満員電車に乗って終電で帰ってくるような生活をしているなかで生まれてきた感情でした。会社では剣と魔法の世界といったファンタジー系の映像を作っていたのですが、僕が毎日使っているコンビニや自動改札、マンションの建設で使うクレーン車といったものを描く仕事が当時の自分にはなく、そっちを描きたいというのが創作の初期衝動だったように思います。だけど、あの頃の「自分の周りの世界を映し取りたい」という気持ちは作品を重ねるごとに気が済んできたところがあり、モチーフも変わってきました。いまの僕は、アニメーション制作をどこか公共事業のように捉えています。お役所仕事という意味ではなく、アニメ映画は必要とする予算や人員、興行的にも今や大規模になっているので、「お金を使って何百人、何千人を巻き込んで行う公共性のある行い」という認識になってきました。海外のディストリビューターと組む機会も増えましたし、自分の表現だけではない意味合いを帯びてきていて、その状況を楽しんでいる自分がいます。

 山田:新海さんはずっと「僕」を描き続けていている人だと思っています。そうした方が「世界を背負っている」自覚を得たのには、どういった心境の変化があったのでしょう。

 新海:最初の頃はやっぱり「世の中にない、自分だったら作れるものを表現したい」という想いがありましたが、作品を重ねるごとに「作る理由」や「面白さ」を他の部分に探し始めるようになりました。同じようなことをやり続けても飽きてくるし、自分の中で淀んでくるものがあって。そこで「作品の外側にテーマを探そう」と思い始めたのが、この10年くらいでした。そんな感じで、「君の名は。」「天気の子」「すずめの戸締まり」辺りは、徐々に別のつくるフレームを見つけ始めた時期でした。年を取ってきた事にも重なると思いますが、純粋なクリエイティブとは違うところもだんだん見始めたように思います。山田さんは初期と今で、変わってきましたか?

 山田:変わってきてはいるかと思いますが、変わっていてほしくないという思いもあります。自分は映画に対する尊敬や憧れをずっと変わらず持っていたいし、今も持てているのでそこはクリアできたとは思っています。キャラクターや作品世界を大切にしていく思いについても、大人になりたくないといいますか――賢くなりたくない、とは思っています。

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