1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 映画

長塚京三がフランス文学を愛する“枯れない”独居老人に 原作・筒井康隆が絶賛、吉田大八監督と語る12年ぶりの映画主演作「敵」

映画.com / 2025年1月18日 11時0分

吉田:この小説を初めて読んだ30代の頃から、儀助の日常生活の描写、食事の支度や家の中の雑用の積み重ねなど、一見単調に見えるからこそ逆に映像で見てみたいと思わせるものがあったんです。後半の激しい展開は、ある程度何を見せるか決まっている。前半は我慢して、丁寧に生活の断片を積み重ねることで、映画全体の設計ができるイメージがありました。そのために原作からどの要素を活かして、どれを外して……と考えることがとても楽しい作業でした。

――原作の設定は1990年代後半でしょうが、映画では現代に変更されています。儀助が思わず知るところになる“怪しい敵”は、SNSでの陰謀論なども想起させ、筒井さんの先見性を感じます。設定以外で、原作と異なる展開はありますか?

吉田:「敵」は、筒井先生の著作の中ではそれほど有名ではないかもしれませんが、すごく現代に通じる小説ですよね。ただ、預金額や年金、物価などは若干調整しました。例えば、儀助が守ると決めている講演料は現在の相場の2~3倍くらいだったのでしょう。脚本執筆段階で、現役の大学教授に取材したところ「今ではそんな額はあり得ない」とのことだったので。あとは、パソコン通信が今は存在しないところを、スパムメールに置き換えたり。基本は原作に忠実な脚色になっていると思います。

――第37回東京国際映画祭コンペティション部門で、グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠を獲得しました。主演の長塚さん起用の経緯を教えてください。

吉田:僕は初稿を書いている間は、できるだけ俳優の顔を想像しないようにしています。書き上がった後すぐに、長塚さんにお願いしようと考えました。知性の裏に秘めた煩悩と、そこから滲み出す色気と人間味、長塚さんを想像してあらためて脚本を読み直したら間違いなく面白くなると確信できたんです。

――インテリでダンディズム溢れる儀助がハマり役でした。長塚さんご自身は、儀助に親しみを感じる部分はありましたか?

長塚:ある知識階級の1人暮らしの老齢者という設定。いつか僕はこういう老人の役をやるような気がしていたのです。だから、いよいよ来たか……と思いました。儀助の設定のリアリティが人ごとではなかったですし、年に不足はないし、(こういった役は)今が受け時だろう、という気持ちでした。

 儀助の、生きることに対する執着のような部分では共感はあります。でも、それをどういう風に……という方法論に関して、例えば彼の食道楽だったりは、共有するものはないかもしれない。しかし、自分の老いをそれなりになぞっていくことは、なかなか楽しいことでした。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください