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【上質映画館 諸国漫遊記】名古屋で<高品位>に映画を鑑賞するなら絶対のおすすめ ミッドランドスクエア シネマ/粋 Siko至高スクリーン

映画.com / 2025年2月9日 15時0分

 例を挙げよう。映画本編は、ニック・オファーマン演じる大統領が、ホワイトハウスから内戦状態の全米に向かってテレビ演説を収録する場面から始まる。敵対勢力が近づいている状況下での切迫感と緊張感、そして虚勢をにじませながら、演説を行なう。そこで絞り出される「D=声」の実在感とリアリティが秀逸だ。映画というフィクションの世界と現実を溶かすような「リアリティ」に思わず息を呑んだ。

 廃墟の団地でアメリカ人同士がライフルで撃ち合う、まさにこの世の地獄というべき市街戦で描かれる「S=効果音」も強烈だ。負傷した敵兵を無慈悲に一発で撃ち殺すという極めてショッキング場面で、シアター内で映画を観ている観客全員の心臓を撃ち抜く。太いナタで高速で襲われる、そんな無慈悲な音である。前列で背筋をピンと伸ばして(後ろから見ていて緊張気味に)座っていた女性が、銃声の鋭さに身体が反応し、一瞬座席から数センチ跳び上がったのを目撃したほどだ。銃声は低域から高域まで幅広い音域で構成されているが、弾が発射された瞬間に全帯域一斉で音が鳴るタイミングが揃わないと、観客を跳び上げてしまうほどの鋭さ、激しさは表現できない。<Siko 至高>の5ウェイスピーカーは、銃声の鋭さで音のチューニングしたわけではないだろうが、設備の高性能ぶりが実によく感じられた瞬間だった。

 敵味方入り混じりながら地獄の様相を見せた市街戦が落ち着くと、ピックアップトラックに装備した銃座から機関銃で敵兵を虐殺する酷いシーンが続く。バックに流れるのは、ヒップポップグループDe La Soulのドラッグ反対を明確にした名曲「Say No Go」。低音がグッと強調されていながらも、重くはない「M=音楽」のリズムがまさにゴキゲンな様子だが、スローモーションで描かれる残虐な画面とのアンマッチに無情と無常を感じた。思わず、監督のアレックス・ガーランドが、「ここの銃撃戦は強烈に、でもDe La Soulの曲はノリよくミックスしてネ」とサウンドデザイナーに指示している様子が浮かんだ。そんな妄想が正しいかは確かめようがないが、あながち間違いではないはずだ。そう確信させる「リアリティ」が音として確かに表現されていた。

 音が良い映画館は、実は「無音の表現」も優れている。ちょっと逆説的な形容だが、それもまた事実である。<Siko 至高>システムで、筆者が最も感心したのが、銃撃音などの効果音の強烈さではなく、巧みに挟み込まれる無音、そして音が無くなっていく過程の描写だった。小さな音がだんだんと無音になっていく刹那に「美しさ」を感じたのである。こうした無音(あるいは無音になる過程)をどう表現するかは、映画音響的にいえば実に難しい課題であって、単に高性能な音響システムを設備として組み込めばよい、というものではない。設備面の充実に加えて、音響面での入念な環境整備が伴ってはじめて「無音の描写」に感銘を受けるレベルに高まるのである。本作は激しい音響のシーンと、その一方で登場人物たちの心象はほぼ無音という形で表現される。そうした「コントラスト(対比)」効果を上手に使うサウンドデザインが特徴的だが、それを極めてクリアーに描き出す。オーディオ機器の専門用語で評すれば「情報量が豊富」で「S/N感が高い」な音だからこそ実現した表現。映画館でありながら、高級ホームオーディオの文脈で語れる「音質」が感じられたのである。

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