パート先の人数が減り、残業が続きました。今年も扶養内に抑えたいのですが、何ヶ月も残業があったら私は扶養を外れないといけなくなるのでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年4月5日 2時30分
扶養の範囲内で働きたいパート社員にとって「年収の壁」は気になるものです。ただ、パート社員の人数が減ったことで、他のパート社員にしわ寄せが及び残業をしなければならないケースも見られます。残業により収入が増えると、扶養から外れる危機感に不安を抱く方も多いようです。人員の確保は事業主の責任ですが、思うように進まないのが現状かもしれません。 今回は、パート社員の収入と扶養の適用要件について考えてみましょう。
扶養には「税金の壁」と「社会保険の壁」の2種類がある
会社員の夫(妻)の扶養に入ると、税金や社会保険の面でさまざまなメリットがあります。ただし、適用されるためには、要件を満たす必要があります。とくに、扶養の範囲内で働こうとする場合には、「税金の壁」「社会保険の壁」といった異なる基準があります。
さらに、パート先の規模やそれぞれの事情にもよるため、複雑で分かりにくいと思っている方も多いのではないでしょうか。まずは、「税金の壁」「社会保険の壁」について確認しておきましょう。
「103万円」「150万円」の税金の壁
パート先から支給される給与が103万円を超えると、所得税の負担が発生します。また、150万円を超えると、配偶者特別控除の適用がなくなるため扶養者の所得税負担に影響が及びます。
「106万円」「130万円」の社会保険の壁
基本的に、企業において社会保険の加入対象となるのは、常時雇用されている従業員であり、年収130万円を超えると社会保険に加入することになります。社会保険の加入により、健康保険料、厚生年金保険料等の負担が発生します。
ただし、パート社員など短時間労働者の場合には、条件に応じて、具体的には下記すべてをみたす場合に加入対象となります。
1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
2)2ヶ月を超える雇用の見込みがあること
3)賃金が月額8万8000円以上であること
4)学生でないこと
5)被保険者の総数が常時101人以上の事業所であること
上記5)については、2024年10月以降は51人以上の事業所に適用が拡大されます。
また、「106万円の壁」とは、月額8万8000円を年額で計算した金額が根拠となります。
残業が増えたことにより、収入が増えた場合
「税金の壁」については、結果として、壁を超えた場合に税負担が生じるのに対し、「社会保険の壁」は、契約条件をもとに見込みで社会保険加入の可否が決まります。つまり、130万円を超えた時点で扶養から外れなければならない訳ではありません。
一時的に収入が増えた場合
一時的な事情であれば、結果的に130万円を超えたとしても扶養の取り消しは行われないことが一般的です。普段であれば、残業なしであるにもかかわらず、繁忙期などで一時的に残業が続いたというケースもよくあることです。
継続して収入が増えている場合
ただし、継続的な残業により、平均して月収入が増えている場合には注意が必要です。扶養の可否をこれまでの給与明細や雇用契約書をもとに判断することとなります。このような場合、パート先からの社会保険加入について相談されるケースのほか、扶養者の勤務先(健康保険組合等)から配偶者の収入確認での問い合わせがくることなどが考えられます。
扶養者の勤務先からパート先での過去1年分の給与明細等の提出を求められ、結果として、扶養基準を満たさず、さかのぼって適用外と判断されるケースも見られます。パート先で社会保険に加入できればよいのですが、場合によっては、自分で国民健康保険、国民年金保険料を負担することもあり得ます。
国の制度「年収の壁・支援強化パッケージ」
とは言え、現実的には、お勤め先、配偶者のお勤め先、さらに加入する保険組合の基準等により適用の可否や事務処理に差があることは否めません。そこで、国が推進する「年収の壁・支援強化パッケージ」により「一時的な収入変動」である旨を証明できれば、引き続き扶養に入りつつけることが可能となる仕組みができました。
残業による年収の増加だけでなく、賃上げ(時給上げ)による収入増加にも対応しています。
逆に言うと、証明できない場合、継続して残業代が増えている(労働時間が増加している)場合には、扶養から外れることになります。
扶養を外れることでメリットもある
扶養から外れると、被扶養者(パートで働く配偶者)だけでなく、扶養する配偶者の税制上のメリットも享受できなくなる可能性もあります。
「せっかく働いて収入が増えたのに、控除額によって手取りが減ってしまった。」
「配偶者控除や配偶者特別控除が適用されていた扶養者の税負担が上がってしまった。」
という声も聞かれます。
たしかに、扶養から外れると、健康保険料や厚生年金保険料を負担することになり、手取りが減ってしまう可能性も考えられます。そういった対策から、扶養の範囲内での働き方を選ぶ方は多いのですが、社会保険への加入は決してデメリットばかりではありません。
厚生年金に加入することで、将来受け取る年金額が増えるメリットもあります。たとえ年額数千円でも、公的年金制度は、生涯受け取れるため、加入する意味はあるでしょう。また、雇用の安定という面でも安心が得られます。
まとめ
企業にとって、適正な人員配置ができず、在籍するパート社員に対し負担をかけたり不安を与える事態は避けるべきですが、人手不足は深刻な課題でもあります。子育てや家事の両立のため扶養範囲内でパート勤務をすることは、働き方の選択肢のひとつです。
時間的・労力的な負担だけでなく、家計を守るためにも、自分自身でのコントロールが必要になるかもしれません。また、扶養内で働くことのメリットとともに、扶養を外れることでのメリットについても知ったうえで、働き方について考えてみるとよいでしょう。
出典
日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」チラシ「130万円の壁でお困りの皆さまへ」
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士
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