「両親になんて伝えたら…」実家から送られた野菜を勝手に処分する“完璧主義のモラ夫”を黙らせた「まさかの訪問者」
Finasee / 2024年10月4日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
結婚を焦っていた春菜(38歳)は、婚活パーティーで知り合った孝輔(40歳)と結婚した。東大卒で会社経営者、顔もスタイルも良くて、知的で自信に満ちあふれた孝輔は理想の相手だと思っていた。
しかし、結婚すると孝輔の態度は一変する。完璧主義者で、料理の味や掃除の仕方、言葉遣いまで徹底的に指導してくるようになる。さらに支配はエスカレートし、春菜の友人たちに対して「そんな人間と付き合うと格が下がる」などと言うようになる。春菜は孝輔の会社経営をサポートするために仕事を辞めていたため、どこにも逃げ場がなかった。
身勝手な孝輔は、春菜の実家の両親が送ってくる野菜を「処分しておいた。二度と送らないよう電話して伝えてくれ」と言って実家に電話をかけさせるが……。
●前編:<!--td {border: 1px solid #cccccc;}br {mso-data-placement:same-cell;}-->「焦って結婚しなければよかった」婚活で出会った“東大卒夫”のあり得ないモラハラ…アラフォー妻の「苦渋の決断」
両親になんて伝えたら…呼び出し音が鳴っているわずかなあいだ、春菜は頭の中で何度もシミュレーションをした。両親の気持ちをどう傷つけずに、どうやってこの残酷な事実を伝えればいいのか。しかし考えがまとまらないまま、電話がつながってしまった。
一拍間を置いて聞こえたのは、父の明るい声だった。
「おお、春菜か! そろそろ野菜が届いたころだろ? 今年のかぼちゃは出来がいいぞ~」
その懐かしい声に、春菜の目に思わず涙がにじんだ。出来のいいかぼちゃはもう処分されていて、家にはない。もちろん孝輔が後ろで見張っているなか、そんな事実を伝えるわけにもいかなかった。
「……うん、ありがとうね。でも、ちょっとお願いがあって……今後はもう、野菜を送らないでほしいの」
一瞬、電話の向こうで沈黙が流れた。父はゆっくりと、しかし疑問を含んだ声で聞いた。
「どうして急にそんなことを……何かあったのか?」
「別に何もないよ。でも、もう冷蔵庫がいっぱいでね……2人暮らしだし、痛む前に使い切るのが大変だから……」
「そうか、俺も母さんも張り切って送りすぎたみたいだな。それで……何か他に困ってることは? 何かあればいつでも言えよ?」
父の言葉は温かかったが、春菜にはその優しさが余計に苦しく感じられた。
電話を切った後、春菜はしばらく立ち尽くしていた。孝輔は春菜が自分の命令を遂行したことを確認すると、さっさと自室へ引っ込んでいった。
こうして春菜の世界は、どんどん狭くなっていく。夫の支配から逃れる術は、もう残っていないかのように感じた。
私はあなたの所有物じゃない数日後、土曜の昼下がり、春菜は家の中を掃除していた。孝輔も珍しく家にいて、リビングで新聞を読みながら、たまにパソコンで仕事のメールをチェックしている。いつも通りの日常。しかし、その静けさを破るように、玄関のチャイムが鳴った。
「……誰だろう?」
春菜は首をかしげながら、玄関へ向かった。来客の予定はなかったし、最近は孝輔の言いつけ通り友人とも距離を置いている。
そっとドアを開けると、そこには父が立っていた。
「ちょっとお前の顔を見に来た」
予想外の訪問に、春菜は動揺した。父はいつも田舎で忙しく働いているため、わざわざ春菜たちの家まで来たことなどなかった。しかも、何の連絡もなく。
部屋に通された父は、孝輔とあいさつを交わす。
「急にすまないな。この間電話で話したとき、春菜の元気がなさそうだったから気になったんだ」
「お義父(とう)さんならいつでも歓迎しますよ。でも春菜は少し風邪気味なだけですから、ご心配なく」
孝輔がにこやかに答え、その横で春菜も小さくうなずいた。その様子にホッとした様子の父は、持っていた紙袋から瓶を取り出した。
「これ、お前たちに持ってきたんだ。野菜で作ったジャムだよ。これなら日持ちするし、かさばらないからいいだろ? 冷蔵庫に入れておくな」
そう言うと、父はジャムの瓶を持って台所へ向かった。
「あっ! お父さん、私がやるから……!」
「いいよ。風邪気味なんだろ? 春菜は座ってなさい」
父は春菜を制して冷蔵庫の扉を開けた。次の瞬間、父がハッと息をのんだのが分かった。それもそのはず、冷蔵庫の中身はスカスカ。実家から届いた新鮮な野菜も一切入っていない。
「春菜、これは一体……」
「お義父(とう)さん、すみません。実は送っていただいた野菜は、先日知人に譲ったんですよ。僕たちただけは食べきれなかったので……」
父が何か言う前に孝輔が先回りした。しかし、父の中に芽生えた疑念は消えなかったようだ。
「それは構わないが……野菜だけじゃなく、肉も魚も見当たらないじゃないか。春菜、お前家で料理していないのか?」
「ここ最近は体調が芳しくなかったので……」
またもや代わりに答えた孝輔に、父がピシャリと言った。
「俺は春菜に聞いてるんだ。春菜、どうなんだ? 答えなさい」
「えっと、これは……」
横目で孝輔の顔色をうかがうだけで言葉が続かない春菜を見て、父は何かを悟ったように大きくうなずいた。そして孝輔をちらっと見ると、春菜の手を握って立ち上がらせた。
「娘には休養が必要みたいだ。実家に連れて帰る」
「え、ちょっとお義父(とう)さん。いくらなんでも急すぎますよ」
少し慌てた様子の孝輔は、反射的に春菜の腕を強くつかんだ。するとその拍子に、バランスを崩した春菜のポケットから小さなメモ帳が落ちた。父はそれを拾い上げると、声に出して読み始めた。
「『だしは一から自分でとること。市販のだしの素は禁止』『品数が足りないと言われた。おかずは最低三品以上が常識』『付き合う友達は大卒以上で専業主婦か正社員』だと……?」
「お義父(とう)さん、それは……」
孝輔は瞬時に弁明しようとしたが、その前に父の怒声が響いた。
「お前は何さまのつもりだ⁉ どんなに立派な経歴を持っていようが、娘を傷つける人間を俺は許さないぞ!」
「いや、あの……」
父の迫力を目の当たりにして、孝輔は普段の自信満々な姿がうそのように口ごもった。反論することもできず、目を泳がせる孝輔。春菜は、その姿を見ておかしくなった。今まで散々自分を支配してきた男が急にひどく矮小(わいしょう)なものに見えたのだ。
「春菜、帰ろう」
「うん、ありがとう。荷物まとめてくる」
「お、おい春菜! 俺はまだ許可してないぞ!」
引き留めようとする孝輔の手を春菜は力いっぱい振り払った。
「ごめんなさい。でも、私が私の実家に帰るのに、どうして許可が必要なのか分からないの。私は孝輔さんの所有物じゃない」
春菜の反論に、今度は孝輔が口を開けたまま固まっていた。
自分の人生を取り戻す日数週間後、春菜は離婚の意向を孝輔に伝えた。
プライドの高い孝輔は、自分の経歴に傷がつくと拒否したが、春菜が諦めることはなかった。
弁護士を交えて何度も話し合いの場をもうけ、ついに調停を申し立てることになった。現在も離婚調停中だが、孝輔の命令を事細かに記録していたメモのおかげで、今のところ春菜に有利な方向に進んでいる。
春菜が本当の意味で孝輔から解放され、自分の人生を取り戻す日もそう遠くないだろう。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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