飛び交う炊飯器や茶碗「いや、もうエグい」 夜逃げする同級生…ウンザリした野球部の掟
Full-Count / 2024年5月5日 7時10分
■藤田宗一氏は京都から長崎へ野球留学…島原中央に進学した
ロッテ、巨人、ソフトバンクでリリーフ一筋通算600試合に登板、2006年WBCでは日本代表の優勝に貢献したサウスポー、藤田宗一氏は京都府出身ながら、1988年に長崎県の島原中央高校に野球留学した。「何かあったら正座でした」という強烈な上下関係に耐える日々を過ごしたが、一度は故郷に戻ろうと決意したという。
藤田氏は中学に入学すると、学校の軟式野球部ではなく、硬式の「南京都シニア」でプレーした。中日の片岡篤史ヘッドコーチもOB。中3の時に監督から「高校生の練習に行ってこい」と指示された。京都・宇治市内に島原中央が遠征で訪れており、同校にはシニアの先輩たちが進んだ実績があった。
「ただ人が足りないから行けと言われたと思っていたんです。でも行ったのは僕だけ。セレクションだったのでしょう」。高校生に交じって汗を流し、ピッチング。島原中央を1986年夏に初の甲子園に導いた森崎哲哉監督が、すぐ横で視察していた。「うちへ来るか」と誘われ「軽い感じで仰ったので、自分も軽い感じで『はい』と答えました」。
その後に地元・京都を含めた数校の強豪からも打診があったものの、遠く離れた学校を選択した。「まずは一番最初に声を掛けて頂いた高校なので。甲子園に出た時の監督さんですし。それに長崎は関西地区に比べると校数が少ないから、4回くらい勝てば県大会優勝。もしかしたら甲子園に行ける。そんな気持ちでした」。
いざ九州へ。長崎市には中学時代に修学旅行で足を運んでいた。だが、島原市の景色は全く違った。「島原中央に進む関西の他の選手たちといっしょに、飛行機で長崎空港に着きました。ああ、いい所だなと思って車に乗ったのですが、1時間、2時間と走って行く程に何にもなくなっていく。海と山しかない。えーっ、どこに行くんやろなと考えていました」。
旅館を改装した寮は、8畳くらいの1部屋を3年生、2年生、1年生の3人で過ごす。「入学式まではメチャクチャ良かったんですよ。こんな生活、ええなぁと。先輩たちが『今はお客さんやからな』と話してましたが、その時は“意味”がわからなかった……」。
■「ケツ割るのか」父の言葉に猛反発「あの言葉がなければ今はない」
入学式の夜。藤田氏は“意味”を叩き込まれた。「新入生が食堂に集められました。1時間くらい正座のまま、野球部のたくさんある決まり事を全て教わりました。監督、先輩への『さん』付けや、返事は何秒以内にとか。練習後にボールが1球落ちていたら1時間の正座。食事の当番など寮生活の事もです」。当初1年生は20人いた。
決まり事に抵触するとどうなるのか。「集合が掛かって……。いや、もうエグいです。連帯責任で目をつぶって正座。炊飯器や湯呑み茶碗が飛んできたり。薄目で見ていたりすると、ばれた瞬間にバコーンといかれます。当時はこれが普通と思っていました」。2時間の正座の後、しびれた足で8キロのランニングを命じられたことも。それも夜の8時過ぎに、戻ってくるまでの制限時間を設定された上でだ。
「野球の練習自体は何とも思わなかったんですが……」。入学から2か月、父の繁和さんに連絡を取った。寮の公衆電話は3年生しか使えないので、街に出て探した。状況を説明して「先輩をしばいて帰るわ」と伝えると、「自分で決めて行ったのにケツ割って帰んのか」と怒られた。藤田氏は「うるさい、ボケ」と猛反発し、電話を切った。
「『見とけよ、3年間やったるわ』と。今になって考えると、親父は僕の性格を知っていたので、敢えてああいう対応をしたんでしょうね。あの言葉がなければ今はないですよ」
藤田氏は同学年の武藤幸司投手(現西武球団・査定チーフ)との両輪で奮闘。しかしながら甲子園の土は一度も踏めなかった。2年秋には選抜を懸けた九州大会に進出している。初戦で東筑(福岡)に敗れたのだが、この時の部員数は総勢10人にまで減っていた。
「朝起きると一人、また一人といなくなって……。去っていく子は言ったら止められるから、みんなが寝ている間に離れる。2年の秋は僕らの世代は9人、1年は1人だけ。だから1年生がやる仕事を自分たちは2年間やったんです。みんなで協力し合って結束力がありました」
藤田氏は回想する。「厳しいけど楽しかった。経験した人にしかわからないと思います。あの時の島原中央で、もう一回やれと言われても僕はできますよ」。父と仲間のおかげで高校生活を乗り切った。(西村大輔 / Taisuke Nishimura)
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