法廷を舞台にした社会派サスペンス ドイツ史上最大の司法スキャンダルをも暴く『コリーニ事件』:映画レビュー
ガジェット通信 / 2020年6月19日 20時0分
徐々に映画館が営業を再開してきましたが、まず最初に何を観に行くか悩んでいる映画ファンの方も多いのではないでしょうか。そこで今回は12(金)から公開された作品の中から、ドイツ映画『コリーニ事件』(監督:マルコ・クロイツパイントナー)をご紹介します。
2001年、ベルリンの高級ホテルの一室で経済界の大物ハンス・マイヤーが無残に殺害される事件が起きました。犯人の国選弁護人を引き受けたカスパー・ライネン(エリアス・ムバレク)は三ヶ月前に弁護士になったばかり。犯行直後に殺害犯自身がその場で警察を呼んでいたため、裁判の展開はある程度予測できるだろうと思っていました。ところがイタリア国籍を持つ犯人ファブリツィオ・コリーニ(フランコ・ネロ)は接見したライネンに何も話さず、かたくなに黙秘をつらぬきます。しかしそれ以上にライネンを悩ませたのは、被害者のマイヤーは幼い頃からの親友の祖父であり、自分の恩人ともいうべき人物だったのです。
裁判に私情をはさむわけにはいかないとライネンは弁護を断ることにしますが、被害者側の代理人であり、かつて学生時代に法律を教わった辣腕弁護士マッティンガー(ハイナー・ラウターバッハ)に一蹴されます。改めて自分の仕事に対する責任を感じて調査を始めたものの、マイヤーは公明正大で善良な人間だったとしか思えず、殺害の動機と二人の接点が全くわからないまま、ついに裁判初日が来てしまいます。
物語は法廷を舞台に、コリーニの犯行の動機にまつわる辛く悲しい過去、そして弁護士としてだけではなくライネンが人間としてどう成長していくかを描いていきます。孤立無縁で地道な調査を続けた主人公がつかんだ真相は、ひとつの殺人事件にとどまらず、ドイツの実際の司法スキャンダルをも暴くことになるのです。
原作はフェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』(酒寄進一訳/創元推理文庫)。ドイツのベストセラー作家で現役の刑事弁護士でもある彼の作品は世界中で愛され、日本でもかつてデビュー作の短編集『犯罪』が本屋大賞を受賞。橋爪功主演で上演された戯曲『テロ』は、観客が判決を下すという大胆な試みが話題を呼びました。
映画と原作の大きな違いは主人公の設定です。原作ではいわゆる特権階級に属するライネンをトルコ人の移民の息子に変えたことで、この物語の主題が現代の社会問題とも通じるようになっています。他にも主人公を助けるキャラクターや被告の生まれ故郷を訪ねるシーンなど、原作にはない映画的な脚色がほどこされていますが、それらは原作者のシーラッハ氏も大満足したとのこと。そんな見事な映像化作品ですが、できれば映画と原作の両方をオススメします。なぜなら原作では裁判の仕組みや、クライマックスで明らかにされる重大な司法スキャンダルについて、ドイツの法律に詳しくない人でもわかるようにとても詳しく書かれているからです。これはこの事件の謎を解くために最も重要な要素なので、じっくりと読んで理解することで映画の余韻も違ってきます。それから絶対に読んで欲しいのが訳者あとがきです! そこにはシーラッハ氏の出自と経歴が詳しく載っていて、これを読むとこの物語の理解度がさらに深まること間違いなしです。200ページほどの短い作品なので、映画と併せてぜひお楽しみください。
【書いた人】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、雑誌「映画秘宝」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP等で執筆しています。
『コリーニ事件』現在公開中
(C)2019 Constantin Film Produktion GmbH
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