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ゲキサカ特別インタビュー『岡田武史ブラジルW杯観戦記』中編

ゲキサカ / 2014年9月19日 17時18分

 しかし、それはサバンナでブラジルというライオンに何度も遭遇し、何度も死ぬほどの思いをしてきた南米勢には通じても、自分のことを虎だと思っているドイツにはまったく通じなかった。ドイツにはブラジルがヨレヨレのライオンにしか見えず、「何なの、こいつ。普通に勝負したろか」と爪を立てたらボロボロにできた感じではなかったか。

 ドイツ戦、オランダ戦と、いいところはまったくなかったブラジルに、一つだけ監督として感心したことがある。監督のフェリポン(ルイス・フェリペ・スコラーリ)がドイツ戦のあと、ピッチで円陣を組ませたことだ。あの場所で、あのタイミングで、選手に何か言葉をかけても効果は薄いと思うけれど、同業者として自分にはまったくない発想だと思った。

 ブラジルの敗戦がショックだったのは、これで街が余計に静かになると思ったこともある。ブラジルで驚いたことの一つに、どこの空港に着いても、町に着いても、W杯特有の浮ついた雰囲気があまりないことだった。反政府デモに気を遣ったのか、ハード面にカネをかけすぎて、街を飾る予算がなかったのか。

 皮肉なことに、街中がW杯らしくなるのはブラジルの試合がある日だった。街頭から人が消え、シーンと静かになる。そしてゴールが決まったとき、地鳴りのような歓声が沸く。その瞬間はテレビを見ていなくてもブラジルがゴールを決めたと分かる。そして勝利が決まると、街頭に繰り出してお祭りを始める人、人、人……。

 そんな町の「静」と「動」に移り変わる姿を見ながら、逆に思った。よく解釈すれば、ブラジルの人々には過剰な装飾なんか必要ないのだと。メディアや広告会社がつくり出す一過性のイベントに浮かれ騒ぐのではなく、もっと自分とサッカーを「1対1」でつなげている。間に余計なものを挟む必要はない。だから、ヨソから来た自分には地味に映って見えるのではないか。だとしたら、過剰包装が必要な国々のW杯に比べたら全然いいのかもしれない。無理に「盛り上げる」必要などないのだから。

 ブラジルが優勝したら彼らはどんな喜び方をするのだろう。どうやって街を熱気で包むのだろう。そう思い始めた矢先のブラジルの大敗。サッカーの世界の最高の夢であり、イベントがこんな形で事実上、終わるのか。そういう感覚に襲われたことが私の胸を通り過ぎた寂しさの理由だったのかもしれない。

▼『岡田武史ブラジルW杯観戦記』後編

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