[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:覚悟(東京朝鮮高・クォン・ジュンソク)
ゲキサカ / 2016年9月23日 15時51分
東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」
延長に入る直前のこと。「雨が強くなってきたな」と感じながら、「ボールが自分の前で止まることもありそうだな」と気持ちを入れ直す。セットプレーで自らに3回続けて訪れたチャンスもモノにはできなかったが、「まだ自分はここに帰ってきてからチームに恩返しができていない。今日は絶対に点を取る」という想いは揺るがない。延長前半9分。味方の放ったシュートが目の前で止まる。「来る!」と思って走り込んでいた直感は正しかった。右足で思い切り振り抜いたボールはGKを破ったものの、ゴールラインの直前にあった水たまりで減速する。「入ってくれ!」。執念の乗り移ったボールは、ゆっくり回転しながら何とか白線を越えた。「ベンチもみんな喜んでくれていたのが見えた」という東京朝鮮高クォン・ジュンソクは叫びながら、自らを受け入れてくれたチームメイトの元へ走り出していた。
「自分より上手い人がいっぱいいる中で、自分がどれだけ通用するかというのを見てみたかった」というのが最大の理由だったという。東京朝鮮中のサッカー部でプレーしていたジュンソクが、当時の吉永一明監督(現・甲府コーチ)と横森巧総監督に「君には熱いモノを感じるから来てくれ」と誘われ、進学先に選んだのは第88回高校選手権で全国制覇を成し遂げた山梨学院高。東京朝鮮高を率いる高隆志監督からも「オマエのいる場所はここじゃないか?」というメッセージをもらい、15歳の心は揺れたものの最後は挑戦したい気持ちが勝った。単身で乗り込んだ山梨の地。「レベルは凄く高くて毎日追い付くのが大変で、最初の頃は下から数えた方が早かったですし、1年の時は本当に苦労した」という日々を送る中で、支えになったのは同じ寮生活を送る先輩の存在。「今は中央大学にいる渡辺剛くんや山中登士郎くんが横の部屋でいつも面倒を見てくれたり、鹿屋体育大学に進んだ福森勇太くんにも仲良くしてもらって、自分がダメな時もアドバイスをもらったりしていました」と語るジュンソク。100人を超える部員を抱えるチームの中で、レギュラーとして活躍している憧れの先輩たちと過ごす時間は大きな糧になった。
2年生になると「サブみたいな感じなんですけど、プリンスのB戦に使ってもらったり、色々な試合を経験したことで自分に自信が出てきて、そこで山梨学院の色も出しながら、自分の色も出せるようになってきた」手応えも掴み始めていた。そんな矢先の8月。ジュンソクに人生を左右する出来事が襲い掛かる。ある試合でヘディングした直後の側頭部に、相手選手の頭が激突した。その時はそれほど大きなダメージは感じていなかったが、「その後に『頭が痛いな』と思って病院に行ったら、思っていたより“重傷”という診断でした」と当時を振り返るジュンソク。頭というデリケートな負傷箇所ということもあって、いくつかの病院を回ったものの、どの病院でも『サッカーを続けることは難しいのではないか』という見解は変わらなかったという。「徐々に良いパフォーマンスが出始めた所」での予期せぬアクシデント。当然親とも話し合いを重ねる中で、最後は「こんな形で終わりたくなかったので、『もうちょっと頑張ろう』と思ってサッカーを続けることを決意した」というジュンソクの想いに、最後は親も「高校サッカーまでならば」という形で折れたそうだ。ただ、都内にある病院への定期的な通院は免れず、そのまま山梨での生活を継続することは困難な状況となった。
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