[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:再会(流通経済大柏高・猪瀬康介)
ゲキサカ / 2018年7月23日 21時52分
最大のピンチは、1点リードで突入した後半アディショナルタイム。鹿島ユースはコーナーキックの流れから結城将貴が枠内ミドル。「ちょっとブラインドになっていて見えなかった」猪瀬が懸命に右手を伸ばして弾くと、詰めていたのは小学生からの友人でもある前田。シュートは流経大柏のゴールネットを揺らす。
同点かと思われた直後。鹿島ユースの歓喜の輪が、一転して抗議の輪に変わる。「弾いたコースに泰良がいたので、『ヤベーな』と思ったんですけど、『弾いた時にあそこにいるということはオフサイドじゃないかな』と思った」猪瀬の感覚通り、副審はフラッグを上げていた。何とか事なきを得た流経大柏が、9分近いアディショナルタイムも確実に消し去ると、勝利を告げるホイッスルがホームグラウンドに鳴り響く。本田裕一郎監督も「こういう相手に勝たなくちゃね」とご満悦。無敗の首位をストップした会心の勝利に、ピッチ上にも応援スタンドにも笑顔の花が咲き誇った。
実は前回白星を手にした浦和ユース戦も、今回の鹿島ユース戦も、ラストプレーは猪瀬のパンチングだった。「今回の鹿島戦も自分が最後にパンチングして終われたのは嬉しかったです」と笑った守護神の言葉は続く。「でも、やっぱり『鹿島に勝てた!』というのが本当に嬉しかったですね。『これ以上嬉しいことがあるのかな』と思ったぐらいでしたし、それぐらい懸けていた試合だったので」。
中学3年生だった、あの日。憧れていたチームは、絶対に倒さなくてはいけない対象に変わった。それから3年。一度は対戦すら諦め掛けた時期を乗り越え、ようやく辿り着いた鹿島とのゲームで勝利を収めた猪瀬に、簡単な言葉では表現できないくらい、さまざまな想いが去来していたであろうことは想像に難くない。。
試合終了後の整列時。猪瀬は鹿島ユースの1人1人と丁寧に握手をしているように見えた。特に仲が良かった佐々木には「ありがとな。また次に戦う時を楽しみにしてるよ」と伝えたという。その言葉の通り、「アイツらも悔しそうでしたね」とかつての仲間を思いやった猪瀬には、まだもう1試合の“再会”が残されている。
流経大柏と鹿島ユースのリターンマッチは12月9日のプレミアEAST最終節。舞台は県立カシマサッカースタジアムが設定された。、猪瀬にとって、もしカシマスタジアムのピッチへ立つことになれば、それは人生で2回目ということになる。「小学校6年生の時、全日本少年サッカー大会の茨城県大会決勝で、アントラーズつくば対アントラーズジュニアの対決がカシマスタジアムだったんです。その時は負けちゃったんですけど、あのスタジアムでもう1回やって、今度は勝ちたいですね」。
猪瀬がそうだったように、リベンジを誓う前田や佐々木は“12月9日”を見据え、気合を入れていることだろう。今度は憧れていた舞台で、かつてとは違うユニフォームを纏って、かつてのチームメイトと対峙する。その時、猪瀬の中には果たしてどういう感情が芽生えるのだろうか。あるいは優勝を懸けて両者がぶつかる可能性も十分にあるタイミングの“12月9日”。きっとカシマスタジアムの綺麗な芝生も、成長した彼らの帰還を心待ちにしてくれているはずだ。
■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」
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