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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:あの日の決意表明(アルビレックス新潟・新井直人)

ゲキサカ / 2019年3月6日 12時24分

 みんな泣いていた。選手はもちろん、スタッフ陣も泣いていた。この年の最上級生は1年時から結果が出ず、「本当に弱かった世代」と野口コーチも認めるほど。そんな彼らが練習からコツコツと力を蓄え、リーグ戦の東京で頂点へ立つまでに成長した。それでも、選手権予選にプリンス関東参入決定戦と、2つの“ファイナル”で敗退を突き付けられる。試合終了直後はこらえていたものの、スタンドの仲間の元へ挨拶に行くと、流れる涙をとどめることは誰にとっても難しかった。

「また選手権と同じファイナルで負けた悔しさからくる涙だったし、それでも3年間やり切ったし、みんなとまだやりたかった想いもあったし、色々な涙だったと思います」。新井は涙の意味をそう明かす。野口コーチは“3年生”をこう称えた。「彼らの取り組み方が他のコーチの心に訴える部分だと思うし、今思えば『よくここまで来たな』という感じです。良いチームでした。その分だけみんなの思い入れも強いよね」。スタッフまであれだけ泣いているシーンは、数々の記憶を呼び起こしてみても、なかなかあの日以外に思い出すことはできない。それほどまでに『良いチーム』だったのだろう。

 実は新井も1年時にサッカーを続けるかどうか、迷っていたタイミングがあったという。そういう時期を仲間と共に乗り越え、少しずつ自信を纏っていく内に、明確な将来の目標が逞しく芽生えていく。1つ上の先輩に福岡将太(現・徳島ヴォルティス)という身近なJリーガーの存在があったことも、彼の想いを強くしていったようだ。それでもこの時は全国大会の出場経験もなく、派手な選抜や代表歴もない、ごくごく普通の高校生。プロからのオファーは届かなかった。

 スタジアムの外に出ると、ようやく3年生たちに笑顔が戻っていく。そこかしこで記念撮影の輪ができ始め、最後の時を名残惜しく共有していく少し前に、何度かの取材で面識のできていた新井に話を聞いた。試合のこと。チームのこと。仲間のこと。まだ涙の跡の残る表情で、丁寧に、丁寧に言葉を紡いでいく。“引退式”の時間が近付いてきたため、取材のお礼を伝え、ICレコーダーを止めると、思い出したかのように彼は、こう口にした。「僕たちを何度も取材してくださってありがとうございました。4年後には絶対プロになります。だから、また試合を見に来てください」。

 その瞬間。どういう言葉を返したかは正直覚えていない。ただ、彼のまっすぐな濡れた瞳だけは、はっきりと記憶に残っている。18歳の冬。新井直人の堂々たる決意表明は、ずっと心の片隅の一角を占め続けてきた。

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