『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:超える(大成高・豊島裕介監督)
ゲキサカ / 2019年7月23日 21時32分
試合前。豊島は選手たちへ語り掛けた。「全員に目を瞑らせたんです。で、『今から言う言葉をみんな想像して。今日の試合が終わった時に、笑っている自分の顔を浮かべて。それだけでいい』って言ってから『笑ってたか?』って。『目を瞑って、笑ってる自分がいたか?』って。そう聞いたらみんな頷いていたので、『だったら大丈夫だ』と言い切って送り出しました」。
その時を思い出して、宮脇は笑顔で語る。「家から勝つイメージしか持ってきていなかったですし、もうイメージはできていたので、そこでやっても変わらなかったです(笑)」。そう言ってから、付け足すように「でも、みんながそうとは限らないので、そこでみんながそういう意識を持っていけたのは、凄く良かったなと思います」と続けたあたりに、彼の人柄が滲む。きっと、みんなそうだった。豊島が思っている以上にきっと、みんなそうだった。選ばれた大成の11人が堂々とピッチの中央へ歩みを進めていく。覚悟は定まった。勝つしかない。もう、勝つしかない。
不思議とPK戦は安心して見ていられたという。「『嘘でしょ』と思われるかもしれないですけど、全然緊張していなかったんですよ、僕自身。『大丈夫だな』って。なんか信じているというか、結果はどうであれ、彼らは悔いなくやってくるから、そこに対して安心感は凄くあったんですよね」。帝京9人目のキックがクロスバーを直撃する。大成9人目のキックがGKの逆を突き、ゴールネットへ吸い込まれる。隣には藤倉と日野が笑顔を湛えている。マットにあぐらをかいて座っていた、愛すべきヤツらとの出会いから13年。目標としてきた母校を超える格好で、全国大会へと出場するための切符は初めて豊島の手の中へ収まることとなった。
2年前。豊島は1年生にある“予言”を与えていた。「ウチに入ってくる子は、中学校時代に優れた選手っていないんです。ただ、彼らが1年で入ってきた時に僕は『2年後、必ず君たちを全国に出すよ』と。『どこでやってたかなんて関係ない。この3年間でどう成長するかだから』って言ったんです」。おぼろげながら根拠はあった。「口だけではなくて、行動が伴っているのが今のこの子たちですから」。
積み上げてきた日常は確信に変わる。豊島は嬉しそうに言葉を紡ぐ。「『試合に出ている人間は仕事をしない』とか、よく言われると思うんですけど、今でも3年生の彼らは仕事をするんですよ。だから、『コイツらはサッカーの神様がいるなら、たぶん愛してもらえるだろうな』というのを凄く感じているんです」。
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