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がん闘病中の小倉智昭さんが直面…「最後の治療」に垣間見える家族力【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】

日刊ゲンダイ ヘルスケア / 2024年4月6日 9時26分

【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】

 がんはいろいろな局面で考えさせられることがあり、家族の力や人間力が問われる病気です。昨年、腎臓がんで左の腎臓を全摘したアナウンサーの小倉智昭さん(76)もそこを実感したかもしれません。朝の情報番組でがんのことなどについて語ったことが話題を呼んでいます。

 報道によると、主治医の勧めで免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダを始めるそうです。その目的は、「がん細胞が体に残っているのはほぼ確実で、この先、転移もするから、免疫を高める治療をしましょう」といいます。

 小倉さんは腎臓がんを患う前の2016年に膀胱がんを公表。その5年後には肺への転移が判明していますから、主治医の見解は妥当でしょう。その説明に続けたのが、「最後の手段として」という言葉でした。

 がんは手術と放射線、抗がん剤をはじめとする薬物療法が3大治療で、ステージごとに受けられる治療が細かく決まっています。その中で、最新の薬である免疫チェックポイント阻害剤は、膀胱がんのほか肺がん、腎臓がん、頭頚部がん、食道がんなど種類としては多くのがんに使えますが、ほとんどが手術や抗がん剤を使えない進行がん、ステージ4を対象としているのです。

 その証拠に添付文書には、「切除不能な進行・再発」「再発または難治性」「化学療法後に増悪した切除不能な」「再発または遠隔転移がある」といった言葉が、がんの前に記されています。「最後の手段」といわれたのはそのためです。

 ステージが低いと、放射線や抗がん剤でがんを小さくしてから手術で切除するということもあります。しかし、そのがんが再発すると、最初が放射線だと、もう一度放射線を当てることはできません。再発の発見が早期で切除できればいいですが、そうでなければ前述した添付文書のような状態で、「最終手段」に移行する可能性があるのです。

 がんは、治療を進めるにつれて選択肢が限られます。がんの治療が“敗者復活戦のない一発勝負”の連続といわれるのはそのためです。

 私はがん専門医として「最後の治療」の現場に長く携わっています。その経験から、その意味を受け止め、理解している方が多いと思います。小倉さんも、恐らくそうでしょう。

 番組で「生きることへの考え方」を問われると、「昔はぽっくり逝くのが理想だった」としつつも、「(いまは)がんの方が“ゴール”が見えてくるじゃない。準備ができる」と考え方が変わったことを口にされています。

 その言葉通りで、がんの治療は“そのとき”に向けて家族や仲間と準備ができるのがよいところです。私も講演などではそこをよく説明していて、小倉さんも実感されたのでしょう。

 小倉さんの奥さまは、母の介護で実家に戻ることもあるそうですが、その分、ラインでのやりとりを増やし、「1日に何回も」メッセージを送るそうです。1人暮らしでも「夫婦間の思いやりは強くなった」と笑顔で強調できるのは、闘病が家族力を高めた何よりの証拠。「最後の治療」という言葉は重いですが、それを受け止めて乗り越えることは悪いことではありません。

(中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)

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