自衛隊がXで「大東亜戦争」と投稿…すべてを曖昧にしたまま戦後をやり過ごしてきた日本人の“疵”(ラサール石井)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年4月11日 9時26分
「東京裁判」に東条英機元首相らA級戦犯被告らが出廷した=1946(昭和21)年5月3日(C)共同通信社
【ラサール石井 東憤西笑】#199
陸上自衛隊大宮駐屯地の第32普通科連隊が、X(旧ツイッター)の部隊の公式アカウントで戦没者追悼式を紹介する投稿に「大東亜戦争」という用語を使った(一部で騒がれ、「他意はない」としてすぐに削除変更された)。
「大東亜戦争」は開戦から4日後に東條英機内閣が戦争の呼称をこう閣議決定したもので、アジアの欧米列強植民地をその支配から独立させ、大日本帝国・満州国・中華民国を中心とする国家連合を実現させるものであるとされた。
後に資源を求めて「南進」し、東南アジア、オセアニアまで広がる「大東亜共栄圏」をつくるのが戦争の大義名分となった。
しかしこれは、実際には欧米と同じ植民地を増やすための侵略戦争を美化する隠れみのではないか、とも言われ、戦後GHQから使用を禁止された。
現在慣例的に公文書では使われなくなったが、「単に戦闘の地理的範囲を示すだけ」という意見や「いやいや実際あの戦争のおかげで、東南アジア諸国の独立が早まったではないか」とする説などあり、日本が主権を取り戻した時点で「大東亜戦争」と呼ぶべきだ、いやアジアの大日本帝国化を進め、日本語による皇民化教育や神社造営などしていたではないか、いやそれは自虐史観だ、など今も論争が続いている。
■自衛隊内では普通に使われていた?
おそらく自衛隊内では普通に使われていて、しかもさほど大きな意味はなかったのであろう。だからすぐ削除できたのだ。
その是非を今は問わないが、要するに「先の戦争」などと書くように、「あの戦争」をはっきりと呼称する名前が戦後79年経っても、ないのが現状である。
それは日本人が全てを曖昧なままやり過ごしてきたからではないか。
現在、井上ひさし作「夢の泪」を上演中である。東京裁判を担当する弁護士夫婦を題材にした芝居の肝はここにある。
劇中の若き娘のセリフ「人さまに裁いてもらっても仕方ないんじゃないかしら」「日本人のことは、日本人が考えて、始末をつける」。
そして期せずして先週放送されたNHK「映像の世紀」も東京裁判のドキュメンタリーであり、最後に井上ひさし氏の言葉が語られた。
いわく、(東京裁判は)「疵(きず)こそ多いが、血と涙から生まれた歴史の宝石」と述べ、「では疵とはなにか、国民がこの裁判を無視していたことです」と我々に問いを投げかけ、締めくくられている。
(ラサール石井/タレント)
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