少しでも大谷選手にネガティブなことを言う人間は許さない…そんな空気に警鐘を鳴らしたい(立岩陽一郎)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年4月27日 11時3分
「世論(せろん)と輿論(よろん)」という議論がある。世論とはpublic sentiment、つまり人々の感情の動きだ。輿論とはpublic opinion、これは人々の感情とは異なり、公の議論を経て作られる意識形成のことだ。戦前は世論と輿論が区別されていたが、戦中、そして戦争が激化する中で輿論が消え、世論が幅を利かすようになる。それは世界に冠たる大日本帝国陸海軍に疑問を呈することを許さず、その結果、大本営が伝える内容が世論を形成していく流れを作り出した。
疑問を呈するなという考えは、この流れを想起させる。私のように疑問を呈した人にとって、「大谷選手も共犯だと言いたいだけ」とは暴論でしかないが、残念ながらその暴論に賛意を示す人は少なくない。つまり輿論の形成に必要な議論の土台である疑問や異論を排除し、ひたすら世論、つまり人々の感情の動きに合わせて発言する流れが既にできている。それがどういう社会を構築するのか。戦中のような言論空間の硬直化を生むと言っても、決して大袈裟な話ではない。
もちろん、自身の発言を謝罪するのは自由だ。私も過去に誤った発言があれば謝罪している。そして、大谷選手のファンが私を罵倒するのも自由だ。しかし、メディアに関わる人間が議論を封じるような言動をすることには抑制的であるべきだ。
▽立岩陽一郎(たていわ・よういちろう) NPOメディア「InFact」編集長、大阪芸大短期大学部教授。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを経て現職。日刊ゲンダイ本紙コラムを書籍化した「ファクトチェック・ニッポン 安倍政権の7年8カ月を風化させない真実」はじめ、「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」「トランプ王国の素顔」「ファクトチェックとは何か」(共著)など著書多数。毎日放送「よんチャンTV」、フジテレビ「めざまし8」に出演中。
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