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絶望的未来ばかり想定されているが…日本経済に潜む「意外なポテンシャル」、4つ【元IMFエコノミストが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月30日 8時15分

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※画像はイメージです/PIXTA

インフレ、低賃金、少子高齢化など、厳しい状況におかれた日本経済。しかし、日本経済にはまだまだ成長できるポテンシャルが残っていると、元IMF(国際通貨基金)エコノミストで東京都立大学経済経営学部教授の宮本弘曉氏はいいます。本記事では、同氏による著書『一人負けニッポンの勝機 世界インフレと日本の未来』(ウェッジ社)から、日本経済が再び軌道に乗るための具体策について解説します。

労働力の減少が見込まれる中で、経済を成長させるためには

足元ではインフレが問題となっていますが、日本では長い間、低物価が続き「安いニッポン」となっています。しかし、低いのは物価だけにとどまらず、経済成長と賃金も低迷しています。三つの低——低成長、低物価、低賃金——に日本経済は苦しんできました。さらに、政府の借金は膨大な額に膨れ上がり、高債務という嵐も吹き荒れています。

さらに、日本は今後、人口が減少し、高齢化も進んでいきます。最新の人口推計によれば、2056年には日本の総人口は1億人を割り、2070年には8700万人へと激減することが見込まれています。

人口の減少は労働力の減少を招き、生産にマイナスの影響を与えるとともに、消費者の減少が市場規模を縮小させ、経済の潜在成長を抑制します。また、高齢化の進展は、社会保障費の増加を引き起こし、財政にさらなる負担をかけることになります。

このような厳しい状況の中で、果たして日本経済が再び成長の道を歩むことは可能なのでしょうか? 誰もが疑問に思うでしょう。その挑戦は確かに遠く、険しいものであることは間違いありません。しかし、私は日本にはそのポテンシャルがあり、今後、伸びていくことは可能だと考えています。

経済成長の源泉は労働、資本、そしてTFPです。

労働力の減少が見込まれる中で、経済を成長させるためには、労働以外の要素を高めるほかありません。つまりは、生産性の向上が必要ということです。個々の労働者の生産性を高めるだけでなく、経済全体の生産性を高める必要があります。

これを同時に達成できるのが、労働市場の流動化です。流動的な労働市場では、適材適所が達成されるので、労働者がその能力を最大限に発揮できるようになります。また、労働の再配置がスムーズに行われるため、経済の新陳代謝が上がり、経済全体の生産性が高まると考えられます。

1.教育改革で人的資本の価値を高める

労働者の生産性を高めるためには人的投資も重要です。技術進歩や脱炭素化により経済・社会構造が大きく変化する中では、個人はその変化に対応するためにも絶えず学び続ける必要があります。

日本の労働者が自己啓発に取り組む割合が他国と比べて低いというデータは、厳しい現実を示しています。しかし、これは逆に、日本人に大きな「伸びしろ」があることを示しています。自己啓発優遇税制などの仕組みにより、労働者が自らスキルアップを目指しやすい環境を整えつつ、教育改革により労働者の人的投資を高めることは十分に可能です。

日本の教育体系はまだ20世紀の工業社会を支えたもののままです。一方、世界では教育にテクノロジーを取り入れる「エドテック」が進み、学習者一人ひとりに合わせた教材や学習方法を提供するアダプティブラーニングが進んでいます。

しかし、日本では、従来型の決められた教室・学年で、黒板にチョーク、紙と鉛筆といった伝統的な道具を使って、全員が同じ内容を同じペースで学ぶというスタイルが続けられています。

知識を注入し、パターン化された技能を習得することに注力する教育は工業社会では重要ですが、今、社会で求められているのは創造力、問題解決能力、そして協働力を備えたグローバルな人材です。そのためには、教育改革が必要です。個人の人的資本を向上させるために、テクノロジーを最大限活用して個々の能力を伸ばす教育を実現すべきです。

オンライン教育の利用はその一例です。優れた教師がオンラインで講義を行えば、生徒はどこにいても同じ質の高い授業を受けることが可能になります。現場の教師たちは生徒と一緒に動画を見ながら、必要に応じて講義を補足したり、オンライン学習に向かない生徒をサポートしたりすることで、よりパーソナライズされた教育を提供できます。

また、AIを用いて個々の学習進度に合わせた教育を行うことも可能です。コンピュータやタブレットを活用し、生徒一人ひとりに合わせたアダプティブラーニングを実施すべきです。

さらに、グローバル化が進む現代社会では、外国語の習得は必須です。公立の小中学校での学習だけで、十分に英語でコミュニケーションを取れるぐらいになるように徹底的に英語教育を行うべきです。公立学校のレベルを上げることは、私立校受験のための費用や授業料負担を軽減し、家計の教育費負担を下げることにもつながります。

2.高齢者でも働きやすい環境づくり

生産性の向上を図ると同時に、少しでも労働力不足を補うためにも、高齢者、女性、外国人労働者のさらなる活躍の場を提供することが重要です。人生100年時代には、望めば誰でも生涯現役で働くことができるような社会・経済環境の整備が必要です。

高齢者が積極的に社会に参加することで、彼らの労働所得が増え、消費需要の創出にもつながります。また、社会保障給付への依存も軽減され、勤労者の税負担軽減にもつながる可能性があります。支えられる側から、支える側になる人を増やす。つまり、社会に貢献できる人を増やすべきです。

高齢者雇用のためには、テレワークなどを活用することが有用でしょう。働く場所や時間の柔軟性を高めるテレワークがさらに普及すれば、体力的には通勤が厳しい高齢者でも働くことが可能です。

また、高齢者をサポートする新技術の開発も、この問題の解決に一役買います。高齢化のフロントランナーである日本がロボットやAIなどのテクノロジーを用いて高齢者の雇用を支える方策を模索すれば、それは将来的に高齢化社会を迎える他の国への輸出も視野に入れられます。

これとも関連することですが、高齢者向けのビジネスは今後大いに伸びる可能性があります。人口減少という現状から、国内ビジネスのマーケットは縮小すると一般的に思われがちですが、決してそんなことはありません。高齢化の進行は避けられない事実である一方で、それは新たなビジネスチャンス、巨大な市場を生み出す可能性があります。

そして、そのようなビジネスを成功させるためには、高齢者のニーズを的確に把握し、彼らが欲しいと思える商品やサービスを開発する必要があります。そこで重要な役割を果たすのが、高齢者自身の労働や発想です。つまり、高齢者の雇用は新たなビジネスチャンスの創出と深く結びついているのです。

ありとあらゆる人が雇用機会に恵まれるためには、賃金は年功序列ではなく、労働成果に基づくものに変える必要があります。これにより、若い人でも、高い給料が支払われるようになります。

3.最新テクノロジー×農業で新たなビジネスを創造

日本経済の可能性は、高齢者向けのビジネスにとどまりません。農業、林業、水産業などにも大きなポテンシャルがあります。海外では、AI、ロボット、ビッグデータなどの最新テクノロジーを駆使した農業(アグテック)が盛んとなっています。翻って、日本ではこうした新技術の活用がまだそれほど進んでいません。

新たな技術、例えば農業用ドローンや自動走行トラクターを戦略的に活用するためには、個々の農家が管理する農地面積の拡大がカギとなります。日本では、農業人口の減少が問題視されていますが、国際比較をすると、実は日本の農地に対する農業労働者の数は多すぎることがわかります。生産性の高い大規模農家や高い技術・資金力・経営ノウハウを持つ企業が規模のメリットを生かした農業を実現することで高い成長が期待できます。

また、従来の農業に観光、教育、自然エネルギーなどの他の分野を組み合わせた新しい産業、「社会農業」も、日本経済の次なる成長エンジンとなる可能性があります。

社会農業のひとつの形として観光と農業を組み合わせた観光農業があります。農作物の栽培や加工を体験したり、農家宿泊を満喫したりするものです。欧州では、アグリツーリズムと呼ばれる、農場や農村に滞在しバカンスを過ごす観光スタイルが広がりつつあります。

さらに、GXやDXにより日本経済の構造を変えることも経済成長に貢献するでしょう。GXとはグリーン・トランスフォーメーション、DXとはデジタル・トランスフォーメーションのことで、前者は、グリーン化を進めることで、後者はデジタル技術によってビジネスや人々の生活、さらには経済・社会の構造が変わることを意味するものです。企業が、GXやDXに積極的に取り組めば、国内で投資が増えることが期待されます。

4.海外市場への進出

グローバルな視点を持つことも非常に重要です。海外市場への進出は企業の成長のカギとなります。実際に過去20年間、一部の大企業では海外直接投資やM&Aなどに積極的に取り組んでいます。大企業だけでなく中小企業も、世界と競争し、独自の強みを生かした商品やサービスを生み出すことで、成長が期待できます。そのためには、技術革新や研究開発への投資、そして市場のニーズに対応する柔軟性が必要です。

また、海外からの投資を促進することが極めて重要です。成長ポテンシャルが高い海外市場に活路を求めるというのは、企業にとっては合理的な行動ですが、日本経済全体で見ると、国内への投資が鈍ってしまいます。そこで重要となるのが外国企業による投資、対日投資です。

図表1はGDPに対する海外からの投資(ストック)の割合をOECD諸国で比較したものです。日本の数字は5.2%で、OECD加盟国で最下位となっています。それどころか、データが公表されている201の国・地域中で198位となっています。

海外からの投資を呼び込むことで、資本だけでなく、異質な経営スタイルや戦略、技術、人材なども国内に流入し、新しい化学反応が起こり、イノベーションにつながる可能性があります。日本の社会安定性の高さは世界でも類を見ない魅力的なものです。海外から投資を呼び込み、世界の受け皿となることを目指すべきです。

政府や企業は、海外からの投資を促進するために、投資環境の改善や規制緩和などの取り組みを進めることが求められます。また、人材育成や教育においても、グローバルな視点を持つ人材を育てることが重要です。これにより、企業は国内外の市場で競争力を持ち、持続的な成長が期待できるでしょう。

日本経済を再び成長軌道へ

日本経済が再び成長軌道に戻る——これは決して絵空事ではありません。可能性は私たちの手の中にあり、それを摑むのも私たち次第です。今こそ、現状を直視し、将来の世代が無限の可能性を追求し、幸せな人生を送ることができるような社会を築くために行動を起こさなくてはなりません。

国の未来は、私たち自身の未来です。それを形成するための政策を政治や行政に求めるのも私たちの責任です。今こそ、私たちが真剣に未来を見据え、日本経済の再興に向けた行動を起こすときです。再び成長の道を歩み始める新しい章は、これから始まるのです。

※ 前回記事:一生正社員になれない…日本企業の「賃上げ」を阻む「非正規雇用者」の強すぎる存在感【元IMFエコノミストが解説】参照

宮本 弘曉

東京都立大学経済経営学部

教授

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