夫婦合わせて〈年金月12万円〉の60代夫婦、〈繰下げ受給〉で年金増額→100歳までの老後資金確保も…想定しておきたい「老後破綻」一直線の事態とは【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月27日 17時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
いつまでも働けるから大丈夫!そう思っていても、社会保障が少ないフリーランスや自営業の老後生活は、必ずしも安泰とはいかないかもしれません。しかし、多様な制度を知っておくことで、豊かな老後への布石となります。ファイナンシャルプランナーである長尾義弘氏の著書『運用はいっさい無し! 60歳貯蓄ゼロでも間に合う 老後資金のつくり方』(徳間書店)より、老後資金に直結するお金の制度について、詳しく見ていきましょう。
基礎年金だけ!悲惨な老後を回避したい
<小林さん(仮名)の家計データ>
小林(仮名)さんは妻の琴美さんとパン屋さんを営んでいます。売り上げは毎月少しずつ違うものの、ほぼ安定しています。それでも、息子2人を育て上げるのはたいへんです。自分たちの老後資金に使おうと思っていたお金も、全部消えてしまいました。
教育費の負担がきついことは覚悟していましたが、小林さんの場合は想定外のできごとに見舞われました。次男が途中で留年したため、予想以上に教育費がかかったのです。 「あれがなければ、300万円くらいは残っていたかもしれないのに……。本当にゼロになっちゃったなあ」
小林さんはため息をつきます。会社員や公務員と違い、自営業者には国民年金しかありません。小林さんの問題は、夫婦合わせても年金が148万円にしかならないことです。月額12万円では、とても生活できる水準ではありません。老後資金を貯めるために、いっそうの自助努力が求められます。
節税対策にもなる「国民年金基金」は加入して損なし
自営業者やフリーランスの人が年金の受給額をもっと増やしたいときは、やはり「国民年金基金」を活用しましょう。国民年金基金への加入は、国民年金の第1号被保険者であることが条件です。20歳から60歳までが対象ですが、国民年金に任意加入をしていれば60歳以上も利用できます。
国民年金基金は、1口いくらという形で掛金を選べ、掛金の上限は月額6万8,000円です。受け取りは確定型と終身型があり、全部で7種類のプランが用意されています。長寿社会であることを考えると、終身型を選んだほうがいいでしょう。終身型は65歳から受け取れ、確定型は60歳と65歳から受け取れるタイプがあります。60歳以降は、65歳からスタートする2タイプです。国民年金基金には、税金面でのメリットもあります。
掛金の全額が控除の対象になり、所得税・住民税が減額されます。つまり、実質の掛金はもっと安くなるわけです。自営業者にとっては、節税に役立ちます。
自営業者の退職金制度・小規模企業共済
自営業者やフリーランスの人には、「小規模企業共済」もオススメです。小規模企業共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が行なっている共済事業です。
これは、中小企業の経営者が退職金を準備するための制度です。
会社勤めの人とは違い、フリーランスや個人経営者には退職金がありません。そろそろ引退したいと思っても、先立つものがなくてはなかなか仕事をやめられません。そこで、小規模企業共済を使って、退職金を自分で積み立てていくわけです。
毎月の掛金の上限は7万円です。1,000円から7万円の間で、500円単位で自由に選べます。そして、減額も増額も可能です。
この制度のメリットは、掛金の全額が所得控除になることです。たとえば、月額7万円を支払っているとすれば、年間で84万円です。所得税が20%なら、住民税の10%と合わせて、25万2,000円の税金が戻ってきます。節税対策にも使えるとは嬉しい話です。
退職金の積み立てが目的なので、廃業や退職、また65歳になると共済金(解約手当金)を受け取れます。加入期間、請求事由によって金額は変わります。詳しくは小規模企業共済のサイトでご確認ください。
共済金を一時金で受け取る場合は、退職所得控除が使えます。年金のように分割で受け取るときは、公的年金等控除の対象になります。また、遺族が死亡退職金として受け取る場合は、生命保険と同じように「みなし相続」となるため、相続税の控除が適用されます。
資金繰りが困難になったら頼れる「小規模企業共済」の制度
ところで、フリーランスや自営業者にとって、もっとも怖いのは資金ショートです。新型コロナによって大きな痛手を被った人も多かったと思います。事業を継続していくうえで、資金繰りは最重要課題です。緊急にお金が必要になった際、すぐに資金調達できると心強いもの。
じつは、小規模企業共済には貸付制度もあります。「一般貸付制度」「緊急経営安定貸付け」「傷病災害時貸付け」「福祉対応貸付け」「創業転業時・新規事業展開等貸付け」「事業継承貸付け」「廃業準備貸付け」など、さまざまです。
ちなみに、コロナ・ショックでは特別措置として、貸付限度額の範囲で利息0%で借りることができます。借入れ期間は、500万円以下は4年間、505万円以上は6年間です。
このように小規模企業共済はメリットが大きい制度です。小規模企業共済の掛金は全額控除になりますが、さらにiDeCoや国民年金基金と合わせれば大きな節税になります。
小規模企業共済の満額月額7万円(年額84万円)とiDeCoや国民年金基金の満額6万8000円(81万6,000円)。年間合計165万6,000円が全額控除になります。所得税が10%ならば、住民税の10%と合わせて20%の控除です。つまり年間33万1,200円の税金が安くなります。
節税にもなって、老後資金も貯めることができるというお得な制度です。自営業者は社会保障が少ないところが弱点ですが、これらを利用すればかなり強化できます。
70歳まで「繰下げ受給」で年金を増やす
さらなるプランニングが必要な小林さんです。次のプランは、繰下げ受給と家計のダウンサイジングです。
〈70歳まで繰下げる〉65歳での基礎年金 78万円
70歳まで繰下げ受給をすると42%の増額になります。
70歳まで繰下げ後の基礎年金 約111万円
夫婦の合計金額は、国民年金基金を合わせると261万円(80歳以降は258万円)
繰下げ受給をすることで老後資金がゼロになる時期は85歳まで延ばせましたが、100歳までは少々遠いですね。
次に、毎月の支出を削ることにします。老後資金がゼロになったら、年金だけで暮らすのです。その前に手を打っておかなければ、その後の生活はもっと苦しくなります。
月に1万円減らし、生活費を月額30万円にします。ダウンサイジングのコツは、生命保険、携帯電話、自動車の維持費、住宅費といった固定費を見直すことです。これらには、意外と多くのお金をかけているもの。日々のこまごました部分を節約するより、大きな効果が見込めます。
70歳からの生活費を年間360万円にすると、老後資金は87歳まで延びました。
「これだけやっても87歳……」道のりの険しさに目まいがしそうな小林さんですが、もうひとふんばりしてもらいましょう。
国民年金しかない自営業者やフリーランスは、年金額が少ない点がウィークポイントです。そのため、老後資金をかなり多めに準備する、国民年金基金や小規模企業共済を利用するなど、「自助」の必要性が大きくなります。
73歳まで働いて、“貯蓄の上積み”を!
ポイントは、70歳以降のプランニングです。自営業の強みは、定年がないこと。いつまで働くかは、自分の裁量で決められます。小林さんは自分の焼くパンに自信を持っていますし、何よりこの仕事に生きがいを感じています。だから、できるだけ長くお店を続けていきたいのが本音です。いまどきの70歳はまだまだ元気ですから、希望はかなうと思います。
とはいえ、体力の衰えはいかんともしがたく、健康面は心配です。営業日や営業時間を見直し、休みを多く取る必要があるかもしれません。それにともなって売り上げも落ちていくでしょう。そうした収入減も見込んでプランニングをします。
73歳まで働き、老後資金を増額する方法です。
2022年4月からは、75歳まで繰下げ受給が可能になりました。繰下げ受給を延長して年金の受給額を増やす方法もありますが、これだと繰下げている間の生活費が持ちません。ですので、資金の増額を考えます。
〈70歳以降のプランニング〉70歳~73歳 時短営業 売り上げ月33万円(年間400万円)
働いている期間は、年間約300万円の貯蓄ができます。3年間ですので、約900万円の老後資金を増額することが可能です。このプランによって、なんとか100歳までは、老後資金を持たせることができました。また、90歳の時点でも1,000万円の資金が残っています。老後生活も安心できる状態になりました。
残念ながら、収支のバランスは、黒字にすることはできませんでした。そのぶん、老後資金が多めに必要なのです。最終的には73歳まで仕事を続けることになりましたが、生きがいを持って長く働くことは健康にもつながります。健康に不安を感じれば、支出をもう少し抑えることを考えたほうがいいでしょう。逆に、元気でもう少し働けるなら、もっと生活に余裕が出ると思います。経済的に楽になり、心にもゆとりができたら、老後生活はますます充実するはずです。
いつまでも元気で頑張ってほしいですね。
ただ、小林さんは厚生年金に加入していないので、遺族厚生年金がありません。配偶者が亡くなったときは、収入が半減します。そういう意味でも、国民年金基金や貯蓄という余裕資金が大切になってきます。いずれにしろ、早めにプランニングを行なうことが、老後生活の不安を解消するコツです。
長尾 義弘 ファイナンシャルプランナー
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