肝臓から脂肪を落とすには?「脂肪肝」を改善する“マイナス2kgの法則”【専門医が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月9日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
肥満・脂肪肝専門外来である「スマート外来」。担当医の尾形哲氏は、「肝臓をいたわる食事は、脂肪肝だけでなく、糖尿病や脳卒中といった生活習慣病の予防にもなる」といいます。尾形氏の著書『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術 予約の取れないスマート外来のメソッド』(KADOKAWA)より、実際のエピソードとともに肝臓の仕組みついて詳しく見ていきましょう。
体重減少は最初の1ヵ月が肝心
「『スマート外来』に来てくださったということは、きっと今の生活を見直して、体をよくしたいという強い思いを持っていらっしゃるのだと思います。由美さんの“肝臓をいたわる食事”について、一緒に考えていきましょう。そのためにも、由美さんの普段の食事や体についての困りごとを教えてください」
何だか、全身の緊張がほどけた不思議な感覚にとらわれた。
「私には中学2年の娘がいます。出産後すぐは、母乳育児だったからか産前よりも体重が減る時期があったんです。だから、出産も悪くないな……とも思っていました。
でも、その後は太るいっぽうで、今は出産前より12kgほど増えてしまいました。だからといって、何もしてこなかったわけではありません。私の体型のことだけではなくて、家族にも健康でいて欲しいから、朝食は野菜とフルーツを使ったスムージーにしてみたり、ご飯に雑穀を入れて炊いてみたり。野菜不足を改善しようと野菜ジュースを飲んだり、腸活になるのでヨーグルトを食べたりすることも欠かさないようにしています。
でもだめなんですね。その結果が、脂肪肝だなんて……」
話しながら、急に涙がにじんできた。私、何で泣いてるんだ。
「由美さんは、とてもがんばられてきたのですね。だめなことなんて1つもありませんよ。今日からできることは、由美さんの肝臓をいたわること。継続すれば、由美さんの脂肪肝は必ずよくなります。大丈夫です」
先生の言葉はありがたかったが、不安が勝っていた。
「脂肪肝をよくするお薬をちゃんと飲めば治りますか?」
「脂肪肝を単独で治すことのできる薬は、今のところありません。でも、薬よりはるかに効果のある方法があります。毎日の食事を変えることです。肝臓をいたわる食事は、脂肪肝だけでなく、糖尿病や脳卒中といった生活習慣病の予防にもなるのです。ただ、実践するのは由美さん、あなたです。ほかのだれでもありません」
と先生はおっしゃった。
「ここからが本題です。脂肪肝の改善には減量が欠かせませんが、由美さんは、体重を何kg減らしたいですか?」
今の私は、身長158㎝で体重が66kg。体脂肪率は34%、BMIは26.44。そりゃ、産前の姿に戻れるなら戻りたい。思い切って素直な気持ちを答えた。
「12kg痩せたいです」
「では、3ヵ月で5kg減量しましょう」
えっ。先生ぇー、人の話聞いていましたか? と思わず、心の中で突っ込んだ。
「5kg減らせば、脂肪肝は改善します。脂肪肝で肥満がある人の場合、体重の7%を目標に減量し、それから標準体重を目指していくことを勧めています。由美さんの体重は今66㎏なので、マイナス4.62㎏。つまり5㎏減らせば、肝臓から脂肪が落ちて、肝臓の炎症もなくなります」
まあ、5kgだって落ちればありがたいことには変わりないが……。でもどうやって? 5kgなら食事をちょっと我慢すれば減量できるのだろうか。これまでいろいろ試してもムリだったのに……。
そんな私の心を見透かしたかのように、先生は続けた。
「12kg減らしたいという希望はわかりました。でも、急激に体重を落とすと体への負担が大きく、リバウンドの原因になりかねません。1ヵ月の減量は、体重の3%以内にとどめましょう。成功の秘訣、『マイナス2㎏の法則』をお教えします」
「マイナス2kgの法則……ですか?」
「最初の1ヵ月はkgの減量を目指しましょう。私たちの外来には、1ヵ月目に2㎏減量できた方のほぼ全員が、3ヵ月で5kg減を達成できたというデータがあるんですよ。何事も最初が肝心ですね。ちなみに、肝心という言葉は、『肝臓』と『心臓』が重要な臓器だということが語源です」
〈先生からの処方箋〉1ヵ月目にマイナス2㎏を達成できた人は、3ヵ月でマイナス5㎏を達成できる。
肝臓から脂肪を落とすには
「では、由美さん。1ヵ月で体重を2kg減らすために、どうしましょうか?」
「食べる量を減らす……ことでしょうか」
「脂肪肝の改善に、体重を落とすことは有効な手段です。でも、痩せるために食事制限をするという考えはやめましょう。痩せて見た目がほっそりすることが、今の由美さんの目標ではありません。大切なのは肝臓をいたわること。肝臓をいたわる食事に変えれば、肝臓から脂肪が減ると同時に、減量もかないますよ」
「肝臓をいたわる……んですね。肝臓の脂肪を減らす方法、知りたいです。肉の脂あぶらや揚げ物を減らせばいいんでしょうか?」
先生は、肝臓にたまる脂肪の正体について説明してくれた。
「肝臓にたまる脂肪のうち、食事から摂った油や肉や魚などの脂が直接影響するのはわずか14%にすぎません。残りの86%は、体についている皮下脂肪と内臓脂肪が溶け出した脂が60%で、糖質から肝臓で合成される脂肪が26%です」
また「糖質」だ。だから、わからない。
「先ほども糖質とおっしゃっていましたが、糖質って体の中でエネルギーになって使われるんではないんですか? 脂肪との関係がよくわかりません」
「おっしゃるとおりで、糖質は私たちが活動するために重要なエネルギー源になるものです。でも、体の中で糖質が増えすぎると、肝臓はそれを中性脂肪という形でため込むんです。いざというときのために」
「いざというとき……?」
「飢餓状態になったときです。人間だけでなく生き物は飢餓状態に陥ったときにいかに生き延びるかという情報が遺伝子に組み込まれているんですね。だから、食料に困ってもすぐ死なないように、今は使わない分の糖質を肝臓に貯蔵しているんです。
でも、実際どうですか? 私たちは1日に3食しっかり食べ、飢餓に苦しむ状態になんてなりません。むしろエネルギー源を摂りすぎなんです。でも、肝臓はまじめで、食事から摂ったエネルギー源をムダにしないよう、健気にもため込んでくれているんです。由美さんのために」
「てっきり脂肪になるのは、肉とか脂なのかと……」
「そう思うのもムリはありません。学校では、糖はエネルギー源と教わりますから。糖の摂取が多すぎると脂肪として蓄積されて肥満になる事実を、そろそろ学校でもきちんと教える時代だと私も思っています」
そう言えば、私の母はあまり肉や揚げ物などとらないのに、なぜか中性脂肪が高いことを指摘されて悩んでいた。そうか、糖質が多かったに違いない!
糖質の多い食事がもたらす体への悪影響について、やっと理解が追いついた。
〈先生からの処方箋〉肝臓にたまる脂肪は食べた「脂」からではない。脂肪に変わりやすい「糖質」を減らそう!
尾形哲
長野県佐久市立国保浅間総合病院
外科部長/「スマート外来」担当医
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