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「節税効果が高くて人気ですよ」の言葉に要注意…養老保険の福利厚生プランに潜む「落とし穴」【経営者専門FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月12日 12時15分

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(写真はイメージです/PIXTA)

法人(企業)が従業員の退職金の準備として、養老保険の「福利厚生プラン」を活用することがあります。企業が受け取った満期保険金は従業員の退職金に充てられるとともに、条件を満たすと保険料の2分の1が経費として損金に算入されるという、法人側にとっての「税金面のメリット」もあります。しかし、導入の際にはさまざまな注意点があることを知っておく必要があります。本稿では、株式会社FPイノベーションの代表取締役・奥田雅也氏が、相談事例を基に注意すべきポイントを解説していきます。

養老保険を使って従業員の退職金積立をしたい

ある日のこと、過去に税金対策での生命保険契約を多数取り扱った医療法人の理事長から、「ご無沙汰しています」とメールが来ました。相談したいことがあるとのことで、数年ぶりに訪問することに。この医療法人の概要は以下の通りです。

〈法人概要〉

業種:医療法人

従業員:350名

相談者:理事長/50代・男性

医業収益:12億円 〈備考〉

平成19年の医療法改正で、出資持分のある医療法人の新規設立ができなくなる直前に設立。ここ数年で介護系施設を増やしており、規模が拡大

養老保険を使った「福利厚生プラン」導入のポイント

理事長の相談は、「ここ数年で職員がかなり増えたので、退職金制度を検討している。養老保険を使って法人での“課税繰り延べ”をしつつ、従業員の退職金積立を行いたい」という内容でした。

累計の保険料が数億円にもなる税金対策での生命保険契約を取り扱ってきた経緯があるだけに、目的が税金対策であることに特段驚きはありませんでした。そこで、まず理事長に対して、以下の4点について説明をしました。

(1) 対象者は原則として全職員になるが、入職後一定期間を経過した職員だけを対象にすることは可能。ただし、保険対象者が全職員の過半数以上になるようなルールにしなければ福利厚生制度としての普遍性が担保できず、税務否認されるリスクがある

(2) 保険期間は原則として退職年齢(65歳)を満了年齢にする。医療・介護職は離職率が高いので、保険期間を長くすると途中で退職した場合に返戻率が上がっていおらず、損をする可能性が高い

(3) 保険金額は弔慰金として常識的な金額(100万円~300万円程度)にしておくべきだが、そうすると保険期間と保険金額を考えてもあまり保険料は高額にならず、税金対策としての効果は限定的になるが、それでも良いのか?

(4)上記のことを考えると、養老保険を使った福利厚生プランで退職金積立制度を導入してもメリットが出しにくい。純粋に退職金積立を検討するのであれば、各種共済制度などの公的制度を活用したほうがよい。ただし、そもそも退職金制度がない現状で、退職金制度をつくることは将来の退職給付債務を背負うことになる。法人運営上、正しい選択なのかを検討すべきである

これを聞いた理事長から、「実際にウチで養老保険を契約した場合、年間保険料はどのくらいになりますか?」という質問をされました。そこで、ざっくりと以下のように説明しました。

「詳細な設計をしないと分かりませんが、イメージとしては、職員の平均年齢が35歳で65歳定年ですと保険期間は30年。保険金額を300万円にする、と一人当たりの月額保険料は8,400円くらいになると思います。それを350名のうち80%の280名で契約したとすれば、月額保険料は約210万円。年間で2,520万円の保険料になり、2分の1の1,260万円が損金として計上できるイメージです」

理事長は「年間1,260万円の損金が作れるのであればそれほど悪くはないですね」とまんざらでもない表情でした。そのため、次のように釘を刺しました。

「損金額としては確かにそうです。ただ、先ほどご説明したように、早期退職するとかなり返戻率が悪い状態で中途解約することになります。なので、積立効果としては損をするだけです。損金だけでいうのであれば、全職員を対象に月1万円の掛金で共済に加入すれば、月間350万円で年間4,200万円の損金が作れます。ただし共済のデメリットは、医療法人の口座から引き落としされた瞬間に掛金は職員さんのものになりますから、法人で積立金は活用できませんが…」

節税効果目的の養老保険は「税務調査」で狙われやすい

この話を聞き、理事長は腕を組んで考え込んでいました。そこで、筆者はさらに質問しました。

「ちなみに税金対策を考えておられるということは、医療法人の決算状況は相変わらず好調なんですか?」

すると、「あいかわらず収益は好調なので、利益対策をしたいと思ったが、昔のように生命保険を使えないのでどうしたものかと思っていました。調べると、養老保険を使った仕組みがあると知ったので、どうせなら職員の退職金積立を兼ねてできればと思ったんです」とのこと。理事長は、さらにこう続けます。

「ただ、奥田さんの話を聞いているとそんなに簡単な話じゃないんですね? よくわかりました。ちなみに何人かの先生に話を聞くと、養老保険を使ってやっていると皆さん言ってますが、よそはどうなんですかね?」

そこで、以下のように説明をしました。

「養老保険を使ったいわゆる『福利厚生プラン』というのは、昔からあるメジャーな手法です。そのため、医療機関に限らず業歴の長い法人では導入されているケースはそれなりにあります。ただ、昔から導入している法人は、私がお話ししたポイントをキチンと踏まえて、正しく制度運営をされているケースが多い印象です。

一方、そうでない法人は、福利厚生や退職金積立という目的よりも節税効果にフォーカスして制度運営をしているケースが多く、危なっかしい法人がそれなりにあります。実際に、国税不服審判所での裁決事例を見ると養老保険に関する事例も多くあり、歴史が長い分、当局もよく分かっていて税務調査で指摘されやすいという印象ですね。

なので、この制度を導入するのであれば本当にしっかりとやらないと危ない。ですので、私個人としてはおすすめしていません。とくに先生の法人のように、いままで退職金制度がなかった法人で導入する場合には、退職金制度を導入することで退職給付債務が発生するリスクと、職員採用・定着という人事戦略において退職金制度が与えるメリットを考慮した上で検討したほうがよいと思います」

保険屋がおすすめする「危ないプラン」に注意

これを聞いた理事長は、「確かにそうだね。目先の税金の効果だけを意識するとおかしなことになりそうなので、もう少し慎重に検討したほうが良いね」と言い、「実はすでに養老保険の見積りは作ってもらっていたんです」と某社の設計書を机の上に置きました。

許可をいただいて中身を見ると、「保険期間65歳満了・保険金額10万ドル」の特殊養老(リタイアメントインカム)だったので、思わず「あ~これ、一番危ないプランです」と言ってしまいました。

しかし、理事長は「この保険屋さんは『このプランは一番効果が高くて、人気でよく売れてます』って言ってたけど…」と怪訝そうでした。

そこで、先ほどの原則に合わせて、保険金額が途中から増えて2倍になる特殊養老は、保険金額が職員の年齢と死亡時期で異なるので福利厚生制度としては適さない上に、金額が大きすぎるのでさらに不適切であることを説明しました。

そして最後に、「この商品を使うのであれば、規定の作り込みと制度設計・商品設計は要注意ですし、逆にそこさえしっかりとやればよいとは思いますよ。ですので、採用される際はくれぐれも慎重にやってください」と伝えると、理事長は「じっくりと考えますね」と言い、相談はいったん終了しました。

その後、帰路について1時間もしないうちに理事長からメールが届きました。その内容は、「退職金制度は見送ることにした」というものでした。順調に規模を拡大している医療法人の経営者だけあって、意思決定の速さと思考の明晰さはさすがだと思いました。

養老保険を税金対策として活用することはめずらしいことではありませんが、筆者と理事長とのやりとりでもわかる通り、注意点が多々あります。それを理解した上で、活用するかの判断をすることをおすすめします。  

奥田 雅也

株式会社FPイノベーション

代表取締役

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