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性欲や情熱に男女差はない…月9の金字塔『東京ラブストーリー』が与えた〈明るいカルチャーショック〉【バックトゥ平成ドラマ】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月18日 11時30分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

「月曜日の夜9時は街から女性たちが消えた」と言われるほど女性たちから絶大な人気と支持を受けた『東京ラブストーリー』。1990年代を代表するフジテレビの“月9”ドラマです。昭和生まれにとっては懐かしい、平成生まれにとっては新文化の「平成ドラマ」の数々。作家・コラムニストの小林久乃さんによる著書『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)から一部抜粋し、平成ドラマの魅力や楽しみ方をお伝えします。

月9なくしてドラマ在らず

「私のことで何を言うのも勝手だけれど、カンチのことを侮辱するのは許さない」 これは『東京ラブストーリー(以下『東ラブ』略)』(1991年)のワンシーンであり、赤名リカ(鈴木保奈美)の台詞である。カンチとは、永尾完治(織田裕二)のあだ名のことだ。 『東ラブ』と言えばリカによる「カンチ、セックスしよう!」と、直球でカンチにアピールをする台詞が、あまりにも有名である。放送当時の1991年は、男性よりも前に出てはいけない。そんな風潮が残る環境でありながら、女性から気持ちをはっきりと伝えた。男性がイニシアチブを取ると思われがちな性行為だけれど、性欲や情熱に男女差はない。リカが笑顔でアピールしたことは、明るいカルチャーショックでもあった。

そんな名言を差し置き、冒頭の台詞のほうが、わたしには強くインプット。台詞が発せられたのは、社内でのワンシーンだった。リカとカンチの同僚(男性)が「あんな女(リカ)と寝るなんて、永尾はバカだ」と、噂をしていることを聞きつけたリカ。自分との関係性を勘繰られたうえに、好きな男性があらぬことを言われてしまった。くやしい、くやしい。大好きな人を守るため、相手に平手打ちをかますリカ。好きな男をかばうリカが格好良かった。同僚をグッと睨みつけて、勝気さを漂わせる目つきも鮮明に覚えている。 『東ラブ』が放送されていた時間帯は、毎週月曜21時=「月9」だ。「げつく」。この言葉の響きだけで蘇ってくる、生温かさはないだろうか。自分が好きだったタイトル、放送翌日に仲間たちと交わす、作品の感想。まだブラウン管のテレビから発信される情報源が最先端だったころ、圧倒的な人気を誇っていた「月9」。年収や容姿、性別なんてまったく関係がない。とにかく「月9」を見ていないと、火曜日の同僚や同級生との話題に乗り遅れてしまう。会社や学校で、ぼっちにされてしまうのだから、視聴する以外に選択はないという、心躍る強制だった。 そんな月9の人気が上昇し始めたのは、1990年代からと記憶している。平成に放送された「月9」の平均視聴率はざっと、20~30%。ドラマに出てくる、ファッションやインテリアに憧れて、上京する若者も後をたたなかった。実際、ドラマに出てくるような部屋には予算オーバーで住めなかったけれど……。「月曜夜は街中からOLが消えた」と、各所で噂されているのは、あながち嘘ではない。わたしも、10~20代の青春期を「月9」とともに過ごしていたひとりで、月曜夜だけは在宅率が高かった。

実は恋愛モノ以外にも…豊富なラインナップの月9

ムーブメントを築き上げた「月9」。男女の色恋沙汰が、若者のステイタスだった1990年代。需要に応えるように、ラブストーリーが多く放送されているイメージがあった。「月9=恋愛モノ」。でもその裏で、実は多種多様なジャンルを制作していた……というのが、わたしの思うこの放送枠の醍醐味だ。 例えば『101回目のプロポーズ』(1991年・フジテレビ系列)。42歳のおじさんがひと回り年下の女性へ、必死になって「僕は死にません!」と、体を張って求愛をするという設定に、老若男女がドラマの熱狂の渦に巻き込まれていった。この作品、浅野温子と長谷川初範のラブシーン以外は、純愛と兄弟愛のひしめく感動物語。真剣に観ていた10代のわたしには人間愛のほうが強く感じられたものである。 『ひとつ屋根の下』(1993年・フジテレビ系列)は、両親を亡くした六人兄弟が少しずつ心を通わせて、困難に立ち向かっていくファミリードラマ。あんちゃん(江口洋介)のひたむきさに、毎週泣かされていたことを思い出す。

氷の世界』(1999年・フジテレビ系列)に至っては、竹野内豊主演による、ミステリー作。

つまりラブストーリーがベースであると見せかけつつ、バーリトゥード(何でもあり)方式の内容が月曜21時に並ぶ。視聴者を夢中にさせた理由のひとつであり、新しさであり、令和への布石であったとわたしは思う。 (次のクールは、どんな内容が放送されるのだろう?)

と、胸を高鳴らせながら、新聞のテレビ欄やテレビ情報誌に目を通すのが楽しみだった。今でこそ、一箇所の放送時間帯に、ミステリー、ラブストーリー…と、様々なジャンルが飛び出してくることが普通になった。あの頃の「月9ガチャ」が発祥だ。

「ありがとう、赤名リカ」月9ヒロインになった瞬間

さて件(くだん)の『東ラブ』による「私のことで何を言うのも勝手だけれど、カンチのことを侮辱するのは許さない」という、潔さの詰まった台詞。いつか自分も使ってみたいと密かに狙っていたのだが、放送から数年後にその時が訪れた。 わたしの出身地である静岡県浜松市では『浜松まつり』という、子どもの誕生と成長を祝う盛大な祭りがある。朝から晩まで、飲んで食べて大騒ぎをするという、浜松市民の誇りであり、街全体が解放区の三日間だ。夜になるとお囃子の子どもをのせた、きらびやかな御殿屋台(山車)も街を彩る。そんな祭りの最中、個人的待望の事件が起きた。

当時仲良くしていた男の子と法被姿で歩いていると、前から来るチンピラカップルに絡まれた。それも男性からではなく、女性から。 「こんなチャラチャラした男、どこがいいのかね?」 確かに彼はチャラい部分もあったので、出会って数秒でその様子を見分けるとは、この女、勘がいい。でも好きな人が公衆の面前で、辱めを受けたとされたわたしは発奮。酒の効果も相まって、ここぞとばかりに決め台詞を思い出した。 「は? あんた、なに言ってんの? わたしのことをバカにしてもいいけど、Aくんのことをバカにしたら許さんからね!」 赤名リカに習うのならば、このあと相手を平手打ちにして驚愕させる。が、この一歩が間に合わず、わたしは酔っ払った相手の女から「なんなんだよ!」と、逆に平手打ちを受けてしまった。で、叩き返すわたし。憧れの台詞デビューは、女同士のヒステリックなプチ乱闘を、好きな人に制御してもらうという無様なエンディングを迎えた。それでも平手打ちまでの一瞬は、わたし、「月9」のヒロインであった。ありがとう、赤名リカ。

小林 久乃 作家、コラムニスト

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