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円安、景気への影響は「ほぼナシ」!? 輸出企業の儲けは株主へ、輸入物価の上昇は消費者にツケ回し…庶民が置かれた厳しい状況【経済評論家が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月6日 9時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

円安になれば輸出数量が増えて輸入数量が減り、景気にプラスの効果がある…。一定以上の年齢の方は、学校でそのように学んだ記憶があるかもしれません。しかし最近では、昔と違って円安によるメリットはさほど期待できないようです。なぜでしょうか? 経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

かつて「円安」は「景気拡大要因」だった

高度成長期から最近まで、景気には輸出数量の増減が大きく影響してきました。そして、輸出数量を変化させる要因のひとつが為替レート(ドルの値段)だったのです。

ちなみに、ドルが高くなることを「ドル高」といいますが、円安という場合も多いですね。米国人から見ると円が安くなったと感じられるからなのでしょう。金融関係の人は「株式市場」を「いちば」と読まずに「しじょう」と呼ぶなど、格好をつける人が多いので、経済初心者にはわかりにくいかもしれませんが、本稿でもドルが値上がりすることを「円安」と記すことにします。

円安になれば(ドルが高くなれば)、輸出企業は「輸出すれば儲かるから、頑張って生産しよう」と考えますし、円高になれば、輸出しても儲からないので輸出企業が生産を減らします。それによって国内の景気が大きく影響を受けた、というわけです。

余談ですが、バブル期には円高が景気にプラスに働きました。金利が高かった時代の話なので、いまを考える参考にはなりませんが、経済の仕組みを考えるうえで興味深いので、記しておきます。円高で輸入物価が値下がりし、消費者物価も落ち着いていたので、景気が絶好調でも日銀が金融引き締めをせず、景気が長持ちしたのです。

輸出企業が「地産地消」に注力するように…

しかし、アベノミクスで大幅な円安になり、今回も大幅な円安になっているのに、輸出数量はあまり増えていません。それは、最近の輸出企業が輸出より海外現地生産に注力しているからです。

輸出企業としては、日本に工場を建てて輸出すれば大いに儲かるわけですが、仮に将来円高になって輸出が困難になった場合には、工場が無駄になってしまうリスクがあるわけです。そんなことなら、最初から売れるところに工場を作ったほうが安心だ、ということなのでしょう。

円安には、輸入数量を減らす効果もあります。海外製品が高くなったら、国内製品を買う消費者が増えるからです。しかし実際には、労働集約的な生産ラインはすべて海外に移転してしまっているので、国産品を買うのが難しい場合も多いようです。

酒については、輸入のワインが高くなれば国産の焼酎を飲めばいいわけですが、筆者のように「酔えればなんでもいい」という酒飲みは多くないようですね(笑)。

というわけで、円安になれば輸出数量が増え、輸入数量が減る、という景気へのプラス効果は、最近ではそれほど期待できないのです。

輸入物価上昇は「消費者に転嫁される」

一方で、円安で輸出入物価が上がると、景気にマイナスの影響が生じます。日本は貿易収支が概ねゼロですから、輸出企業がドルを高く売れて嬉しい分と、輸入企業がドルを高く買わされて悲しい分が概ね同じわけですが、それぞれが景気に与える影響が異なるからです。

輸出企業が儲かった分は、株主への配当や銀行への借金返済に使われますから、景気へのプラスの影響は小さいでしょう。バブルの頃までの日本企業は「従業員の共同体」ということで儲かれば給料や賞与が増えていたのですが、最近では「企業は株主のもの」と考える経営者が多いので、昔のようにはならないのです。

一方で、輸入企業がドルを高く買わされた分は、消費者に転嫁されます。ガソリン代や電気料金が値上がりして財布が軽くなってしまった消費者は、飲みに行く回数を減らしますから、景気は悪くなる、というわけです。

そこで、円安の景気への影響は、数量面でのプラスが小さく、価格面でのマイナスと差し引きゼロといったところだと筆者は考えています。

労働力希少で、成長に制約が…

少子高齢化による労働力希少(労働力不足と呼ぶ人が多い)も、円安の景気への影響を小さくする方向で影響しているはずです。

輸出企業は、工場を建てたくても建設労働者が集まらず、増産したくても工場労働者が集まらないリスクがありますから、海外に工場を建てる方が安心だ、と考えるかもしれません。

飲食店では労働者が集まらず、客は空席待ちをしているかもしれません。そうであれば、電気料金が上がって飲みに行く客が減ったとしても、空席待ちの客が減るだけで、実際に飲む客は減らないかもしれません。

余談ですが、そもそも少子高齢化には景気の波を小さくする効果があります。高齢者の所得は年金が主ですから、高齢者の消費は安定しています。したがって、高齢者向けの仕事をしている人の所得も安定しており、彼らの消費も安定しています。極端な話、現役世代が全員で高齢者の介護をしている国には景気変動はないでしょう。それは極端すぎますが、日本はそれに少しずつ近づいている、ということはいえそうです。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

塚崎 公義 経済評論家

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