「円高で苦しく、円安でラクになる」が常識だったが…ここまで変わった「戦後から現在まで」日本経済の実情【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月11日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
戦後の焼け野原から10年ほどで復興した日本経済は、高度成長期で飛躍的に豊かになり、その後の安定成長期でさらに豊かになりました。しかし、バブル崩壊とともに成長が止まり、「失われた30年」とも呼ばれる長期低迷を経験します。最近は、少子高齢化で経済成長も厳しく…。変化を振り返ってみましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
【高度成長期】人々の生活が飛躍的に豊かになった
戦後の焼け野原から10年ほどで復興した日本経済は、高度成長を迎えます。毎年平均10%近い経済成長が20年近くも続き、人々の暮らしが飛躍的に豊かになったのです。
農村にトラクターが来ると、1人の農業労働者が耕せる田畑が何倍にもなりました。これを「労働生産性が向上した」といいます。そうなると、農村では人が余ります。そこで、農村の若者が都会に働きに出ました。
都会では、新しい工場が大量に建てられ、そこに農村からの労働者が雇われていったのです。都会の工場でも、洋服工場にミシンが導入されると労働者1人当たりの洋服生産量が飛躍的に増えました。労働生産性が向上したのです。
労働生産性が改善すると、供給が増えます。当時、需要は無限にあったので、供給力が増えた分だけ経済が成長できたのです。なんといっても、家も服も決定的に足りませんでしたし、テレビや冷蔵庫などの魅力的な新商品も次々と売り出されましたから。
いまになって振り返ると、高度成長期には負の遺産もあります。多くの若者が都会に働きに出たため、農村が高齢化していること、大量のインフラが一気に造られたので、それらが一斉に老朽化していること、などです。
【安定成長期】日本製品の品質が向上
1973年の石油ショックにより高度成長は終了しましたが、その後も20年近くにわたり日本経済は安定成長期を過ごします。経済成長率は高度成長期の半分程度になりましたが、それでも今では考えられないほどの成長ですね。
安定成長期には、日本製品の品質が向上しました。高度成長期には「日本製品は値段も品質も低い」といわれていたのが、安定成長期の後半には「日本製品は品質がいいから、高くても買いたい」といわれるようになったのです。
1985年にプラザ合意があり、大幅な円高となりました。輸出が激減すると懸念されていましたが、品質の高さが評価されて輸出の落ち込みは懸念されたほどではありませんでした。そこで、「日本製品は素晴らしい」「日本経済は米国経済に勝った」「来世紀は日本の時代だ」といった楽観論が広がり、バブルに繋がっていったのです。
【バブル期~バブル崩壊後】日本経済の絶頂→一転、金融危機に
88年、89年頃には、株や土地の値段が経済実態とかけ離れて高騰しました。日本経済に対する楽観論が広がり、「株や土地は値上がりするだろうから、買っておこう」といった動きが広がったのです。そうした動きを支えたのは金融緩和でした。景気は絶好調でしたが、円高で物価が安定していたことから日銀は金融緩和を続けたのです。
後から考えればバブルだったのですが、バブルの最中にそうと気づくのは容易ではなく、賢い人たちのなかにも株や土地を買っていた人が大勢いました。
最後は政府日銀がバブルをつぶしたのですが、その結果、景気が悪化しました。バブル期に浮かれていた消費者が急に慎重になったこともありますが、それ以上に深刻な影響を与えたのは金融危機でした。
借金で不動産を買った人が返済不能に陥る事例が増加し、銀行には巨額の貸倒損が発生しました。それにより銀行の自己資本(純資産)が減少し、銀行は「貸し渋り」を余儀なくされました。銀行には「自己資本比率規制」が課せられているので、自己資本が減少した銀行は貸し出しを減らす必要があったからです。貸し渋りによって多くの中小企業等が困難に陥り、景気は大いに悪化したのです。
【金融危機後】長期低迷が継続
金融危機は、政府の必死の努力でなんとか収まりましたが、その後も日本経済の長期低迷は続きました。アベノミクスで景気は回復し、デフレからは脱却しましたが、好調と呼べるような経済状態には戻っていません。
長期低迷の理由については多くの人がいろいろ語っていますが、筆者は「人々が贅沢をせず、老後のための貯蓄に勤しむようになったので、消費が伸びない」ことが原因だと考えています。
【最近】過去の常識が通用しない現象が多発
筆者は何十年も景気の予想屋をやっていますが、最近「頭の切り替えが必要だ」と思うことがあります。円安の影響、景気刺激策の必要性、終身雇用制、などについてです。
長らく「日本経済は円高で苦しく、円安で楽になる」と考えて来ましたが、最近は円安でも輸出数量が増えず、円安が必ずしも日本経済にプラスではない、と思うようになって来ました。その辺りについては拙稿『昔は〈円高不況〉という言葉があったのに…令和のいま〈円安〉が景気に効かなくなった納得の理由【経済評論家が解説】』をご参照ください。
長らく「日本経済の問題は失業だから、需要喚起が重要」と考えて来ましたが、少子高齢化で恒常的な労働力希少となっているとすれば、需要喚起よりも労働生産性の向上の方が重要なのでしょう。ちなみに、筆者が労働力不足と呼ばずに労働力希少と呼ぶ理由については拙稿『「ウチを辞めれば失業だよ?」ブラック企業お決まりの脅し文句も効果なし…「労働力の希少化」が日本に引き起こす、喜ばしい変化とは?【経済評論家が解説】』をご参照ください。
終身雇用制も、かなり変化しているようです。若い人の意識の変化等に注目していかないと、実態を見誤るかもしれないと自戒しています。もしかすると、起業する若者が増えて、日本経済が活性化するかもしれませんね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。
塚崎 公義 経済評論家
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