【ジャガー Fタイプ試乗】新2リッター4気筒ターボでも、加速と音の演出は期待以上
&GP / 2018年6月8日 20時0分
【ジャガー Fタイプ試乗】新2リッター4気筒ターボでも、加速と音の演出は期待以上
ジャガー「Fタイプ」は、イギリスのラグジュアリーブランド、ジャガーが展開するピュアスポーツカー。
全長4480mmと大き過ぎない2シーターのボディは、荷物を置けるスペースが広くとられていない(ラゲッジスペースも浅く実用性は低い)ことから、走りを重視したパッケージングであることがよく分かる。
Fタイプは、1996年から2006年に掛けて展開された4人乗りのラグジュアリークーペ&コンバーチブル「XK」シリーズの後継車種といわれるが「ゴルフバッグを積むために荷室を大きくした」とも揶揄され、全長4790mmと大柄なXKシリーズとは、根本から設計思想が異なる。
そんなFタイプに、昨2017年9月、ちょっとした事件が起きた。排気量が“わずか”2リッターの、4気筒ターボエンジンが搭載されたのだ。まさに、ラグジュアリーブランドのスポーツカーとしては異色の組み合わせ。今回は、そんな衝撃モデルの魅力について考えてみたい。
■堂々と胸を張って乗れる4気筒のFタイプ
これまでFタイプには、5リッターのV8スーパーチャージャー(2タイプあり、最高出力550〜575馬力/最大トルク69.3〜71.4kg-m)と、3リッターのV6ターボ(3タイプあり、340〜400馬力/45.9〜46.9kg-m)という、2種類のエンジンが積まれていた。対して2リッターの4気筒エンジンは、ターボ付きとはいえ、最高出力300馬力、最大トルク40.8kg-mと、当然ながら“お兄さん”たちに比べるとスペックは控えめ。
ハイパフォーマンスを自慢とするラグジュアリーブランドのスポーツカーに2リッターエンジンとは、なんとも今どきの組み合わせだが、同時に、ダウンサイジング(排気量を下げて燃費を良くする手法)が当たり前の時代とはいえ、いくらなんでもやり過ぎじゃないだろうか? そんな疑問を抱くのは僕だけではないだろう。
そんな揺れる思いを抱きつつ、実車を前にしてまず安心したのは、チープさというか“廉価モデル”らしさというか、もっとストレートにいうと“安っぽさ”が全く感じられなかったこと。一般的に、排気量の小さいモデルは価格重視の装備内容となるケースが多く、特に今回のFタイプのように、途中から追加されたバージョンであれば、なおさらその傾向が強まりがち。
ところがFタイプの4気筒モデル、中でも今回の試乗車である「クーペ Rダイナミック 2.0L P300」は、見た目にはV6やV8エンジンを積んだ上級モデルと大きく変わらない。例えば、スタイリングの印象を大きく左右するホイールは、標準仕様こそ18インチだか、オプションでV6の上級仕様と同じ20インチホイールを選択できるし、同様に、LEDヘッドライト(V6も上級グレードのRダイナミックにのみ標準装備)など、エクステリアアイテムの多くはオプションで上級グレードと同じ内容に仕立てられる。
唯一、上級モデルと同じにならないのは、4気筒モデルのみマフラーエンドがオーバル形状となること(V6はデュアルパイプでV8は左右4本出し)だが、ほとんどの人には分からないレベルの違いなので、気にする必要などない。これは、ポルシェの「ケイマン」や「911」と同じ手法の差別化なのだ。
インテリアも同様で、スエードやプレミアムレザーの表皮、そして、カーボンのトリムなど、豊富なオプションを活用すれば上級仕様と変わらない上質な内装に仕立てられるから、オーナーにとってはうれしいはず。いずれにせよ、Fタイプの2リッターモデルは、見た目からエンジンが4気筒であることがバレバレなんてことも、安っぽさが漂うなんてことは一切なく、堂々と胸を張って乗れるのだ。
では、気になる走りはどうだろうか?
「2リッターの4気筒ターボは加速が物足りないのでは?」という疑念を抱くのは当然のことであり、僕もまずはその点が気になった。だから念入りに確認したが、結論からいうと、そうした思いは完全なる杞憂。「僕らが考えそうなことはジャガーにはしっかりと見透かされていた」…。今はそんな気持ちである。
試乗車が搭載するのは、“INGINIUM(インジニウム)”と呼ばれるジャガー&ランドローバーが次世代を見据えて独自設計した、新世代の4気筒エンジン。2リッターという排気量ながら300馬力と強力で、スポーツカーのFタイプと組み合わせても、グイグイと車体を加速させていく。わずか1500回転から4500回転まで、フラットに強力なトルクを発生する扱いやすい特性で、必要にして十分どころか、それ以上の加速を味わえる。アクセルペダルをひと踏みすれば、あっという間に周囲のクルマを後方へ追いやってしまう…。ウソも誇張もなく、一般道を走る限り、これ以上の加速は必要ない。
また、音の演出だって秀逸だ。速度やエンジン回転数に応じてバルブを開閉する“アクティブスポーツエキゾーストシステム”の効果は絶大で、味わい深い排気音を楽しませてくれる。高回転までエンジンを回した後、アクセルオフした際に聞こえてくる破裂音も勇ましい。これは期待以上の走りだ。
確かに、日産自動車の「シルビア」など、かつて日本のスポーツカーもそうだったし、三菱自動車の“ランサーエボリューション”シリーズやスバルの「WRX」だって「2リッターの4気筒ターボだから遅い」なんてことはない。逆に、むしろ速いくらいだ。最近では、ポルシェで最もピュアなスポーツモデルであるケイマンだって、エントリーモデルは2リッターの4気筒ターボを積んでいる。だから素直に考えれば、車両重量1660kgのFタイプだって、4気筒エンジンでも速いのは当然のことなのだ。V6やV8エンジン搭載するFタイプと比べても「速さは4気筒で十分。V6やV8のパワーは過剰かも!?」…これが“4気筒Fタイプ”を味わった後の正直な感想だ。
一方、V6やV8と比べた時に劣るところはないのか? と問われれば、残念ながら官能性能に関しては、少々見劣りするように感じた。高回転域のフィーリング、魂を揺さぶる鼓動、そして、動的性能に刺激をトッピングしてくれる音の演出。そういった部分で4気筒ターボはV8やV6にはかなわず、それらを知ってしまうと、4気筒では物足りなく感じるのも、また事実である。
ちなみに、4気筒モデルの価格は806万円〜。一方、V6エンジン搭載モデルは984万円〜となる。ふたつのシリンダーと40馬力のパワー差、そして、高まる官能性能に対して143万円のエクストラコストを払えるか否かは難しい判断だが、Fタイプのルックスや“実用性”だけを考えるのであれば、4気筒で十分かもしれない。
ただし、スポーツカー好きに多い“MT信仰者”にとって残念なのは、4気筒モデルではMT仕様を選べず、トランスミッションはすべて8速ATとなること。もしもMTのFタイプが欲しいのならV6エンジンを選ぶしかないが、そんな人を除けば、Fタイプの2リッター4気筒モデルは、買って絶対に損のないモデルだと断言できる。
<SPECIFICATIONS>
☆クーペ Rダイナミック 2.0L P300
ボディサイズ:L4480×W1925×H1315mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:300馬力/5500回転
最大トルク:40.8kg-m/1500〜4500回転
価格:873万円
(※試乗車は1205万6000円/2018年モデル)
(文/工藤貴宏 写真/ダン・アオキ)
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