【ジープ ラングラー海外試乗】驚きの連続!オフロードの聖地も軽々と走破:岡崎五朗の眼
&GP / 2018年10月22日 19時0分
【ジープ ラングラー海外試乗】驚きの連続!オフロードの聖地も軽々と走破:岡崎五朗の眼
北米に、世界有数のタフなオフロードコースがあります。その名も“ルビコン・トレイル”。
カリフォルニア州レイクタホ周辺に広がる、全長35kmにも及ぶ同コースは、ジープブランドのオフロード性能のテストスポットとして有名。また“ジープマニア”たちが集まり、定期的に“ジープ ジャンボリー”と呼ばれるイベントを開催していることでも知られています。
そんな“オフロードの聖地”で、間もなく日本に上陸するジープの新型「ラングラー」をドライブしてきたのは、モータージャーナリストの岡崎五朗さん。ジープのアイコンであるラングラーの新世代モデルは、果たしてどのような進化を遂げているのでしょうか?
■新しいJL型ラングラーも“ジープのお作法”を継承
――この夏、新型ラングラーでドライブされたルビコン・トレイルは、ひと言でいってどのようなコースなのでしょうか?
岡崎:ルビコン・トレイルは、ネバダ州からシエラネバダ山脈を抜け、カリフォルニア州のレイクタホに達する、険しい花崗岩で覆われたオフロードコース。コース全般に大小の岩が連なっていて、普通のクルマでは到底、走破できそうにない過酷な地なんだ。
そんな難コースで、ジープは40年以上にわたってオフロード性能を磨いてきた。ラングラーのラインナップには、悪路走破力を高めた「ルビコン」というグレードが設定されているけれど、それはまさに、ルビコン・トレイルから名づけられたもの。それくらいジープの開発陣は、このタフなオフロードコースでの性能を重視しているんだよ。
――ジープといえば、その起源は軍用車両ですよね?
岡崎:ジープの誕生は、1940年にまでさかのぼる。アメリカ軍は第二次世界大戦で使用する、小型・軽量で機動力が高く、牽引能力にも優れた4人乗りの軍用車両に関する規格を、複数の自動車メーカーに提示した。
それを元に、各社が思案したプランの中から選ばれ、翌1941年に誕生したのが軍用車両のジープ。大戦中、世界の戦地で使われたジープは、戦後1945年くらいから民生用としても使われ始めるようになる。その頃のジープは、今、全盛の時代を迎えているSUVの元祖というべきモデルだろうね。
――今年、話題を集めているスズキ「ジムニー」のネーミングの由来は“ジープ・ミニ”だとウワサされています。それくらいジープというクルマは、昔から世界のオフロード4WDやSUVからターゲットとされる存在だったわけですね。
岡崎:そうだね。そして今回ドライブした新しいJL型ラングラーは、まさにジープの現代版というべきモデル。ラダーフレームシャーシや前後のリジッドアクスル、パートタイム4駆など、悪路走破力を左右する“ジープのお作法”みたいなものは、従来モデルから継承している。
その上で新型は、前輪のアンチロールバーを車内のスイッチひとつでフリーにできる機構を導入したほか、アプローチアングルやランプブレークオーバーアングル、デパーチャーアングルといった走破力を左右するスペックを引き上げるなど、オフロード性能を一段と高めているんだ。
■ポルシェ「911」と同様、ラングラーはブランドの精神的支柱
――近年、SUVが持てはやされているせいか、ジムニーやメルセデス・ベンツ「Gクラス」といったリアルオフローダーと呼ばれるモデルも、オンロード性能をかなり進化させてきました。その点、新しいラングラーはいかがでしたか?
岡崎:今回の試乗会は、舗装路を走る機会がほとんどなかったから、オンロードでの本当の実力というのは、正直、体験できなかった。何しろ舗装路は、ホテルからルビコン・トレイルまでの、30分ほどの道のりを往復しただけだからね。
逆にオフロードは、ルビコン・トレイルでの1泊のキャンプを挟んで、計2日間、過酷なコースをずっと走りっぱなし。これまで世界各国、いろんなメーカーの国際試乗会に参加してきたけれど、今回の試乗会で記録した平均速度は、これまでで最も低いんじゃないかな。悪路で止まったり走ったりを繰り返していたから、平均速度は結局、5km/hに過ぎなかったと思う(笑)。
開発陣は「新しいラングラーは、オンロード性能も進化しています」といっていたけれど、その割に、その実力を体験する機会がほとんとない試乗会だったんだ。やはり、ラングラーの真価はオフロードにあり、と位置づけているんだろうね。
それでも新型には、オンロード性能の向上を期待できる要素が、多数盛り込まれている。新しいJL型ラングラーを見ると「あれ、どこが変わったのだろう?」と思うくらい、一見しただけでは従来モデルからの変化が分かりにくいけれど、細かく見ていくと“セブンスロットグリル”が刻まれたフロントパネルが、途中で“くの字”に折れ曲がっていることに気づく。こうしたデザインが採用されたのは、ジープとその後継モデルであるラングラーにとって、初めてのこと。実はこれ、空力性能を意識して採用されたものなんだ。個人的には、ついにジープも空力を意識してきたか、と感慨深かったね。
また、リアのドアをマグネシウム製にしたり、高張力鋼板やアルミを多用したりすることで、JL型ラングラーは先代に比べて、70kgほどのダイエットに成功している。さらにパワートレインも、新しく2リッター直列4気筒ターボ+8速ATの組み合わせを用意したほか、従来からの3.6リッターV6エンジンにはアイドリングストップを追加。そして北米仕様には、マイルドハイブリッド車も用意している。中でも、フィアットが開発したものをベースとする2リッターターボは、軽快でスポーティに回るし、8速ATとの組み合わせで、とても軽快に走ってくれる。
こうした空力改善、軽量化、パワーユニットの変更などは、さらなる排気ガスの清浄化と、省燃費対策の一貫であることは明白だよね。おまけに新型は、トレッドと呼ばれる、左右輪の間隔が広がっていて、オンロード走行時に踏ん張りが利くようになったし、その分、前輪が大きく切れるようになって小回りも効くようになっている。だから、オンロード走行を始めとする日常での使い勝手は、かなり向上していると思うよ。
――オンロード性能を向上させたからといって、オフロードでの性能を犠牲にしていない点は、いかにもジープらしい、ラングラーらしいところですね。
岡崎:それは、ジープブランドの中に「グランドチェロキー」や「チェロキー」、「コンパス」、「レネゲード」といったSUVが、複数ラインナップされているのが大きいだろうね。“軟派なジープ”が増えてきている分、ラングラーまで悪路走破力という点で日和ってしまうと、ジープ全体のブランドバリュー低下につながりかねない。そういう意味でラングラーは、ジープの「Go Anywhere , Do Anything〜どこにでも行けて、なんでもできる〜」という開発コンセプトに対し、妥協のないモデルといえるね。
――ラングラーは、ジープブランドのフラッグシップ、という位置づけなのでしょうか?
岡崎:考え方によっては、グランドチェロキーの方がフラッグシップなのかもしれない。けれど、ブランドの精神的な支柱は、やはりラングラーだろうね。例えばポルシェの場合、「パナメーラ」の方が高価であったとしても、やはりブランドのコアは「911」以外にありえない。同様にジープの場合も、ブランドアイコンはやはりラングラーだよね。
■素の状態でもスタックすることなく難なく走破
――ルビコン・トレイルでの様子を拝見する限り、川を渡ったり険しい岩場を走破したりと、ハードなルートだったようですが、その時、車内のドライバーや乗員は、どのような状態なのでしょうか?
岡崎:川を渡る際は、実はものすごく快適だったよ。何しろ新型ラングラーのルビコンは、深さが最大76cmの川でも渡れるだけの性能を実現しているからね。たださすがに、岩場を抜けていく時は車体が上下・左右に大きく揺すられるし、たまにはアンダーガードを岩に打ちつけることもあるから、結構、大変な思いをしたよ。
ちなみに、ラングラーは助手席の前にアシストバーが付いているんだけど、ハンドルを握っていない助手席の人は、バーを握って身体を支えていないと、体が大きく揺すられて大変。今回、ルビコン・トレイルを走ってみて、初めてバーの必要性が分かったよ(笑)。
――ルビコン・トレイルはものすごくタフなコースみたいですから、さすがのラングラーでもスタックを経験されたのではないですか?
岡崎:ところが、スタックするようなことは、一切なかったんだ。もし、片方の2輪が地面から浮いてしまっても、センターデフをロックさせると難なく脱出できるし、仮に3輪が浮いてしまっても、前と後ろのデフをロックさせればタイヤの空回りを抑えられるから、1輪だけでも走破できる。とはいえ実際は、そのデフロックを使う機会さえ、ほとんどなかったほどなんだ。
今回はルビコンをドライブしたのだけれど、素の状態でもサスペンションがよく伸びるし、最低地上高も十分過ぎる量が確保されている。おまけに、ローレンジのギヤ比が他のグレードよりも低く設定されているから、タフなルビコン・トレイルのコースでも、全く問題なく走破することができた。
おまけに、過酷なオフロードを走る時というのは、一般的にタイヤの空気圧を低くし、できるだけトラクションを稼げるようセッティングするものなんだけど、今回はタイヤの空気圧も、ディーラーから持ってきたままの状態。開発陣は「こうしておいた方が、ルビコン・トレイルから帰る前にエアを入れ直す必要がなくていいだろう?」と笑っていたけど、ちょっと驚いたね。
それでいて、普通のクルマじゃ絶対に走れないような難コースでも苦もなく走れてしまうのだから、本当にラングラーの悪路走破力はすごいと思う。オフロードを走るプロでもない僕たちが、過酷なルビコン・トレイルをラクに走破できてしまうというのは、本当に驚きだった。
■日本マーケットにおける新型ラングラーの大いなる可能性
――五朗さんは、これまでのラングラーに対し、どのような印象をお持ちでしたか?
岡崎:4ドア仕様の「アンリミテッド」が登場して以降、ラングラーはSUVとしての魅力がかなりアップしたよね。2ドアは確かにカッコいいけれど、とにかく車内が狭い。アンリミテッドもリアシートこそ狭かったけれど、子どもなら十分座れたし、ラゲッジスペースも大きくなっていた。その上で新型ラングラーのアンリミテッドは、先代モデルの弱点だったリアシートが広くなっている。これはオーナー予備軍に対して、大きなアピールポイントになるだろうね。
そういう点から見ても、新しいラングラーはものすごいポテンシャルを秘めたクルマだと思う。実際、日本のマーケットでは、ラングラーの販売台数がジープ全体の35%くらいを占めていて、世界で一番、ラングラー比率の高い国となっている。全方位的に進化した新型の登場で、そんなセールスに一段と弾みがつくんじゃないかな。
――確かに、日本人にとってはジープ=ラングラーという印象が強いですもんね。
岡崎:これまで「ラングラーの良さは確かに分かるけれど、自分にはちょっとハード過ぎる」と感じていた人は、グランドチェロキーやコンパスを選んでいた。でも、本物が欲しいと思う人は、やはりラングラーを選びたいところだよね。そういう点で新しいラングラーは、オンロード性能もアップしているし、ジムニーやGクラスのフルモデルチェンジでリアルオフローダーに注目が集まっている中での上陸だから、日本でも相当売れるんじゃないかな。
もちろん、中には「オフロードなんてどうせ行かないから、そんな性能は不要」なんて声もあると思う。同様に、スポーツカーのサーキットにおける性能も「どうせサーキットには行かないから不要」と切り捨ててしまうのは、簡単なこと。でも「どうせあんなことしないよね」「これはいらないよね」なんて具合に性能を削っていき、それが行き過ぎてしまうと、世の中は後ろ向きのプロダクトばかりになってしまう。その結果ユーザーは、味気ないクルマ選びを強いられてしまうんだ。
例えばポルシェを買った人が、何かの機会に「やはり市販車開発の聖地・ニュルブルクリンクを7分30秒で走れるクルマはすごい!」と実感できれば、自分のクルマのことをもっと好きになるだろうし、愛車に対して誇りを持てるようになる。同様に、ジープもあのルビコン・トレイルを難なく走破できるクルマだと知れば、オーナーの愛車に対する誇りは、格別のものになると思うんだ。
クルマというのは、単なる移動手段ではない。だからこそユーザーには、もっと本物に触れて欲しいし、本物を欲しがる人がさらに増えていって欲しいと思う。そういう点で新しいラングラーは、まさに本物だし、折に触れてすごさを感じられるクルマ。カタチだけのSUVが全盛を迎えている今だからこそ、こういった本物は高く評価したいと思う。
(文責/&GP編集部 写真/岡崎五朗、FCAジャパン)
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