「環境が変われば育児の悩みも解決!? まずは今の場所を疑ってみよう」 #9 柚木麻子さん (作家) 後編
Hanako.tokyo / 2024年3月4日 18時30分
小説『ランチのアッコちゃん』や『BUTTER』でおなじみの小説家・柚木麻子さん。2018年に出産し、はじめての育児に悪戦苦闘しているさなかにコロナ禍に突入、その後のステイホームやワンオペ育児……。激動の数年を綴ったエッセーに共感した方も多いはず。Podcastでは、自身が大好きな2000年代前後のドラマや映画、音楽、ファッションをパワフルに語り、その熱意と知識の多さにも注目を浴びている。つらかったこと、楽しいことを私たちに作品や配信番組を通じてビビッドに共有してくれる彼女に、育児、仕事、そしてフェミニズムについて伺った。
最新刊『マリはすてきじゃない魔女』では、誰かのための素敵なんて目指さなくていいと気づく、11歳の女の子魔女を描いた、柚木麻子さん。まだまだ社会のことを勉強中だと語る柚木さんが参考にしている本がある。
「アメリカで売れている『本当の私に会いに行く』(グレノン・ドイル著・海と月社)という本があるんです。白人のフェミニストが有色人種を踏んできたという反省を踏まえて書いてある本ということもあり、目指しているところがかなり高いから、全部真似しなきゃって気負う必要はないんですが、ひとつ参考になったことがあって。『何かを変えようと思ったら上流と下流に行け』という箇所です。著者の場合は議会にアクセスすることと、ストリートにアクセスすること。それを両方やらないと意味がないって書いてあるんです。
私は本の選考委員(「女による女のためのR-18文学賞」(新潮社))を務めていて、受賞作を選ぶ際に、もちろんいい小説を選びたいっていうのもあるんですけど、次世代が読んだときに、目の前が開くものを選ぶようになりました。
絶望であれ、飢えであれ、読んだときにライフハックになったり、同じ環境にいる人が『私だけじゃない』と思えたりする作品を選んでいきたいですね」
執筆活動に育児。日々忙しく過ごす柚木さんは、何もかもから解放されて自由な時間ができたら何をしてリフレッシュするのだろうか。
「作家は、仕事とプライベートがはっきりと分けられない職業。だから、好きな本を読んでいても『これ仕事。資料だよ』って言える。そういった点では恵まれているかもしれないです。もし1日予定が何もなかったら、オールナイトで映画を観たい。話題になってもない、知っとかないとまずいみたいな映画じゃないやつ。オール明けにのんびり街を歩きたいですね。
育児をしていると、以前より圧倒的に時間がなくなるから『あれも観てない、これを読んでない』ってあせることが多いじゃないですか。でも下の世代の子と話していると、コンテンツを急いで消費することに背を向けている子が増えている気がします。
だから、私みたいにあまり流行ってない映画を劇場で観ている人は、若い子にとっては生き証人みたいな存在。『作品が面白いか面白くないかでいうと、面白くないかもしれないけど、私が観なきゃいけないと思ってる』と話すと、そのスタンスを褒めてもらえます。
日本だけでなく、アメリカでも“上の世代が観てないもの”、“バズってないもの”に価値を見出す世代が現れてきているみたいです。
育児にいっぱいいっぱいになっているときは、新しいもの、SNSで話題になっているものをインプットしていないと、世界から置いてけぼりにされた気がして、自分がつまらない人間に思えて悲しくなってきちゃいますが、その考えいったん忘れても大丈夫なんだって教えてもらえました。
今も、話題のフェミニズムの本とか追えてなくて焦っちゃうこともあるんですけど、こういった書店※に私が昔読んでいた本が並んでいると嬉しくなります。自分の栄養になっている本が、今も古びてないんだと気づけて安心するんです。
エトセトラブックスBOOKSHOP フェミニズムの本を集めた書店。気軽にフェミニズムに触れられるよう絵本、漫画、小説なども多数揃える。https://etcbooks.co.jp/
前半 では育児に悩んだら、今いる環境を疑ってみることが大切だと教えてくれた柚木さん。世界はすぐに変えられなくても、小さなことからできることはたくさんあるという。
「例えばですけど、私は今、上沼恵美子さんを応援しているんです。小さな一歩として上沼さんのYouTubeを観て、再生回数を増やしてます。再生回数が伸びれば、局も動くんじゃないかな。もっとメディアに出てほしいなって人のYouTubeを1回再生する。それも一つのアクションです。自由に使えるお金がなくてもできるし、育児中、疎外感を感じているときにも社会に参加することができます。
応援できる企業のものを選ぶのもいいですよね。同じ値段のそうめんだったら、共感できる企業がつくっているこっちを買おう、みたいな。メディアって素敵な人しか登場しないから、『私全然できてない』って焦ってしまうけど、そんなことはないんだということはこれからも伝えていきたいです。手抜きしていいって発信している人の家がめちゃくちゃきれいだったりね(笑)。
新刊の『マリはすてきじゃない魔女』は、そんな“素敵”のイメージに、がんじがらめになってしまっているお母さんたちのために書いた物語でもあるんですよ」
柚木さんが大切にしている、リモージュボックス。フランスの中部に位置する磁器の街リモージュで、1点ずつ手作りされているもの。「一年に一度、自分へのご褒美として銀座和光で買うのが楽しみ。これを集めるために頑張ろうって気持ちになります」
柚木麻子 作家1981年生まれ。大学卒業後、製菓メーカーで働きながら、小説を書きはじめる。2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞してデビュー。以後、女性同士の友情や関係性をテーマにした作品を書きつづける。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞と、高校生が選ぶ高校生直木賞を受賞。ほかの小説に、「ランチのアッコちゃん」シリーズ(双葉文庫)、『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』(どちらも新潮文庫)、『らんたん』(小学館)など。エッセイに『とりあえずお湯わかせ』(NHK出版)など。 振付師の竹中夏海、DIVAのゆっきゅんと2000年前後の文化を語りつくすPodcast「Y2K新書」を配信中。
photo:wakana baba text:marie takada 前半はこちら外部リンク
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