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パワハラと指導の境界線 旭川医大問題のケーススタディ /増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2021年2月9日 7時30分

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増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

・旭川医科大学付属病院事件
国立大学旭川医科大学の吉田学長は、同大学付属病院「旭川医科大学病院」古川病院長を解任しました。コロナ対応をめぐって吉田学長による不適切発言も報道される中、古川病院長はコロナ患者受け入れ促進を提言しましたが、大学の意思決定としては却下されました。

一方、旭川医大は古川病院長に対し、学内会議の内容をマスコミに漏らした点、学内を混乱させたといった理由から病院長解任を発表しました。古川氏は情報漏洩を否定したものの、それは認められませんでした。

吉田学長に対しては、コロナ問題対応への問題発言や日頃からの強権的言動から、パワハラ体質だとの批判が起きています。また突如病院長を解任された古川氏も解任はパワハラであり解任理由である情報漏洩を否定し、解任無効を訴えています。古川氏以外の大学や大学病院関係者からもパワハラ告発があるなど、強引な吉田学長の姿勢には文科省含めて問題視する声が上がっていますが、学長側はパワハラ行為を否定しています。

・混乱の理由
ハラスメント問題では「言った・言わない」「ハラスメントの意図はない」という、加害者と被害者の言い分の齟齬や証拠の有無など判断に困ることが普通です。また今回の旭川医大事件のようにコロナ問題や日頃の態度・人柄といった、関係人物の印象も大きな影響があります。

旭川医大では、コロナ患者受け入れに否定的発言をしたり、日頃から強権的言動で反発を持たれていた吉田学長に対する反発が土壌となり、病院長解任という大きな節目によって注目が集まったことで、「パワハラ」告発につながったと考えられます。

また吉田学長は同大学一期生であり、やり手学長としてこれまで再選を重ね、学長と言うだけでなく学内で大きな存在感を示しているのでしょう。さらにコロナという前代未聞の非常事態と旭川市の医療逼迫という緊急事態が加わり、混乱と批判が増幅されました。企業でもデキる上司・イケイケ社員として社内評価が高く、その功から出世を果たした人がハラスメント加害者となる例が多く見られます。

この問題の真相は部外者である私にはわかりませんが、あくまで報道ベースの事実を見た限りで考えてみたいと思います。学長側のハラスメントがあったという事実認定も証明はされていません。

一般的な事例でも、ハラスメント・パワハラ問題では、その発生環境の整理で骨格が見えてきます。

・パワハラ認定
すでに古川氏から大学へは解任への撤回を求める再調査要請が出されており、進捗はまだ明らかになっていません。私がハラスメント問題に取り組む際に留意しているのは、こうしたさまざまな土壌や人間関係、感情が入り交じった混沌をいかに簡素化し、問題点を抽出できるかだと思います。

改正労働施策総合推進法が成立する前から、厚労省はパワハラの定義を行っていました。いわゆる「パワハラ成立の3要件」です。「職場における優越的な関係を背景とした言動」「必要かつ相当な範囲を超えておこなわれること」「雇用する労働者の就業環境が害されること」の3要件を「全て満たす」ことで成立します。

セクハラは被害者の感覚が重視されますが、パワハラは被害を受けたと言うだけでは成立しない点が重要です。それゆえ証拠に基づく客観的判断が、組織管理には何より重要となります。パワハラ研修ではこの点を、管理者も社員もしっかり理解してもらう必要があります。

フライデーデジタルの報道によれば、大学側の説明において、古川病院長に吉田学長が「お前が辞めろ」ト発言したことは病院の患者受け入れ体制、職員を守るためでパワハラにあたらないと、旭川医大役員会議が判断したという説明に、病院関係者は「パワハラかどうかは受けた側が判断すること」というコメントが出ていますが、これは残念ながら正しくないのです。

・旭川医大病院事件をどう見るか
吉田学長の強権的な発言が問題だと報道されています。コロナ患者受け入れ枠を増やしたいという古川病院長に対し「(受け入れを増やしたければ)お前が辞めろ」と発言したとの報道もあります。

めんどうなのは一連の内容が学長と病院長だけでなく、学内会議という組織を通じて病院長解任が決まっている点です。学長が一人で「クビだ!」と言ったところで即座に解雇はできません。しかし正式な学内会議として決定された以上、解任は成立していると考えられます。問題はその会議でも解任理由が情報漏洩や学内混乱という、ある意味「言った者勝ち」状態で証拠が提示されていない点です。

さらに日頃の学長の言動が著しく反発を呼び、長期に渡る学長在任による個人崇拝的な権威性があるのだろうと想像します。企業でもカリスマ的立場の幹部や創業者、社長自らがハラスメントに及んだ際に、企業内組織に自浄能力を発揮するのはきわめて困難です。

しかしながら、かつてならもみ消せたハラスメントも、今やハラスメント防止法や裁判だけでなく、SNSという強力な武器ができました。旭川医大病院事件もマスコミからネットに話題は拡散し、ネット上で大きな関心を呼んでいます。ハラスメント関係記事は反響が大きく、特にこのような独裁的な権威性を持つ事物に対しては炎上的な反応が起こるのが普通です。今、旭川医大病院はここにあるといえます。

・ハラスメント対応
ハラスメント問題への対処と、大学のガバナンス問題は別物なのです。発生原因は同根であり、仮に学長の独裁的権威などの問題であったとしても、ハラスメントだけを冷静に切り取って対処することが組織管理においては欠かせません。感情的な反発心のようなものを捨てるのは確かに難しく、さらにこの先不適切な顧問収入やスキャンダルなどの告発もあり得るかも知れません。

ハラスメント問題収拾は、そのようにハラスメント以外への問題拡散を避け、いかに判断していくかが重要です。旭川医大には旭川医科大学ハラスメント等防止規程があり、学外へも公開されています。
第2条では(2)でパワハラについて、(3)ではアカデミック・ハラスメントについて禁じています。

こうした規定に沿い、パワハラ防止法などの法の趣旨にのっとった、冷静かつ客観的な判断と対処が欠かせません。身近でハラスメント問題が起こればその組織は大いに動揺するおが普通です。当事者だけでの解決はさらに難しくなります。対応は必ずハラスメント委員会のような組織体で行わなければなりません。

またもう一つ、組織トップがハラスメントに及ぶ例が十分にあり得ることからも、必ず社外の委員を含めてハラスメント委員会を形成することは欠かせないと考えます。法律解釈だけの問題ではなく、現実的な人間関係や組織風土まで総覧した判断と対処を進めるため、法律の専門家や有識者だけでなく、実務を理解する社外の経営管理経験者は重要だと思います。


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