実行するビジネス・パーソンは何が違うか ⑪実行とはプロセス/猪口 真
INSIGHT NOW! / 2016年3月4日 9時56分
猪口 真 / 株式会社パトス
プロセスを重んじることなく、結果ばかりを追い求めている組織、個人が陥るのは、結果が出ない→結果だけを求める短絡的な行動→結果がさらにでない→さらにおかしな行動、という、完全な負のスパイラルだ。
現在のルーティンワークの結果がある程度の想定範囲の結果の中で仕事をしているなら、新しい売上や利益を獲得しようとするならば、やはり新たな戦略、プロジェクトに取り組む必要が出てくるし、もはや根性や気合で乗り切れるものではない。
つまり「実行」することが必要になる。
以前にも述べたが、実行とは単なる行動ではない。またルーティンワークをこなすことでもない。
指示されたものであろうが、自ら考えついたものであろうが、課題とニーズをとらえ、新たなプロセスのもと、ソリューションを遂行していくことだ。
つまり、ルーティンワークとは異なるビジネスプロセスを構築する必要があるのが実行ということになる。
たとえば、新たなチャネルに商品を売る戦略を採用したとしよう。
これまで経験のあるチャネルであれば、決まった担当者に連絡をとり、商談を行うことができるだろうが、担当者もわからなければ、会社もわからない。ましてや、そのチャネルが抱えるニーズも分からない状況だ。
そうなると、担当者を探し、ニーズを知るためのプロセスを自分で見つけることが必要になる。そしてそのニーズに対して提案すべきソリューションを考え、提案すべき相手を探し、関係をつくり、文書にまとめ、提案するというプロセスを自分でつくる必要がある。
これは相当に難しい作業だし、同じビジネスのなかにいながら、これまでのルーティンワークとはまったく違う仕事となる。成長意欲にも乏しく、現状維持をよしとするサラリーマンであれば、間違いなく「ご遠慮申し上げます」となるプロセスだろう。
ビジネス・パーソンのなかには、残念ながらこの「実行」のプロセスに挑まない人が多い。これができないために、戦略がいつまでたっても実行されない事態となっているのだ。
ジョン・コッターは、『実行する組織』(ダイヤモンド社)の中で、ネットワーク組織を機能させ、加速させる「8つのアクセレータ」として、以下のように表現した。
1.危機感を高める
2.コア・グループを作る
3.ビジョンを掲げ、イニシアチブを決める
4.志願者を増やす
5.障害物を取り除く
6.早めに成果を上げて祝う
7.加速を維持する
8.変革を体質化する
これは、コッターの推奨するこれからのビジネスを乗り切るための「組織のデュアル・システム」を機能させるための「8つのアクセレータ」として提案されたものだが、これは、戦略実行のプロセスにもそのままあてはまる。
まず、人が動くための最初のステップは、危機感、課題意識、問題意識の高さだ。人は何か解決したい問題があるから行動しようとするのであって、ビジネスにおいては、課題のないところにソリューションもなければ、解決策もない。
コッターが次に打ち出したのは、実行していくメンバーだ。人は1人では何も解決できないし、またモチベーションを保つのも難しい。コアとなる仲間を集い、グループをつくることで、問題解決に向かって意欲が高まっていく。
そして、到達する場所、問題解決の姿を明確にし、そのためのコアとなる戦略を策定する。この部分の行動だけをリーダーの仕事を思っている人も多いが、8つのアクセレータのうちの1つにすぎない。
4つ目は、志願者を増やすこと、つまり周囲を巻き込み、チームメンバーを増やし、役割を与えることになる。これによって、戦略を実行する組織ができたことになる。
5つ目は、リーダーとして障害物を取り除くことだ。障害物といっても、予算やリソースといったハードのものをあれば、心理的な障壁や人間関係、違うアイデアのほうが良く見えるといった心理的な障害まで幅広い。
リーダーとして、行くべく道を誤らないためにも、常に障害を取り除き、軌道修正を図らなければならない。
6つめは、メンバーのモチベーションを保つためには、早いうちに結果を出し、成功体験を皆で祝うことだ。
7番目と8番目は、変革のスピード、戦略実行スピードを維持し、体質化、習慣化することだ。
このように、成果を生み出すためには、プロセスを経ることが必要だ。いきなり何かが突然に生まれるわけではない。
逆に言えば、重要な戦略を実行するビジネス・パーソンは、自分だけの実行プロセスを持っているということだ。どうやら実行「できる」ビジネス・パーソンの要因はこのあたりにありそうだ。
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