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経営戦略構文100選(仮)/構文22:ファイブフォースモデルと基本戦略/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2018年3月8日 10時30分

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伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

ファイブフォースモデルは「完全競争市場等の経済原則」と分析対象業界の乖離の度合いで、業界の収益性を分析し、超過利潤が平均的にどの程度残るのか?その要因は何か?を特定していく枠組みである。そのいくつかある要因に対して企業がどのような一連の選択をするのか?がいわゆるポジショニングであり、多様にあるポジショニングをターゲットと戦略的優位性の2軸で、コストリーダーシップ、差別化、集中の3種類に分類したものが基本戦略である。集中におけるターゲットの絞り込みは競合をターゲット以上に減らすことで自社の交渉力を上げる試みとして捉えられるし、コストリーダーシップと差別化という戦略的優位性は、経済学で想定されるコスト逓増モデルとは違うコストの振る舞いを自社が生産活動において実現可能であること、買い手から財がユニークネスを持つと認知され、情報の非対称性からブランドロイヤリティを獲得していることと捉えられる

こんにちは。伊藤です。最近、ぱくたその女の子モデルがさほど増えなくなってきてしまいましたね。もっとそのへんの道端にも可愛い女の子はいっぱいいると思うんですけどね。

今日のモデルさんは白鳥片栗粉さんです。以下、ぱくたそより紹介文です。

元レディースアパレルブランド企画部出身。現在Webのお仕事しています。
休日のみのモデル業です。

Ranshiro(モデル) | TOPMODEL.JP

休日だけモデルをする日々って割とかっこいいですね。平日はWebのお仕事。休日はモデル。別々の扱いなわけですね。そうです。今日は別々の扱いをされているファイブフォースモデルと基本戦略が別のものでなく、同じコンセプトで語られるべきだろうということを書いていこうと思うわけです。

ポーターの勉強会を毎月やっていて、向こう半年ぐらいポーターの分厚くて翻訳の文章が読みにくい本を英語版と対照しながらちゃんと読み返さないといけないので、ここでもポーターネタが増えてしまうかもしれませんね。ごめんなさい。

さて、今日はファイブフォースから基本戦略の流れを説明しようと思います。ファイブフォースを概論で説明して、基本戦略を概論で説明する人はいますが、ほとんどの人は薄緑の分厚い本を読まずに、安直な解説本しか見ていないので、そのつながりについて解説はしませんよね。というか、つながりがあることを理解している人は稀でしょう。

今日はそのつながりについて書いていこうと思います。

ファイブフォースはいいですよね。もう何度も説明したSCPパラダイムの考え方です。下記2つの記事で概論が解説されています。

経営戦略構文100選(仮)/構文11:SCPパラダイム/https://www.insightnow.jp/article/9467

経営戦略構文100選(仮)/構文7:完全競争市場とファイブフォースモデル/https://www.insightnow.jp/article/9389

今日はもうちょっと深く見て行こうと思います。

上記の記事と多少重複して恐縮ですが、まず、ポーターの出身分野である産業組織論からSCPパラダイムを説明しましょう。ポーターのコンセプトを理解するのに必須の考え方だと思います。

産業組織論の初期の知見として、「上位8社が業界売上70%以上を上げる製造業界の利益率はそうでない製造業界の利益率の2倍である。」という研究結果があります。これは当時としてはとても画期的な発見でした。

そもそも、経済学では「完全競争市場」を想定します。同質な企業が完全に平等な条件の下で競い合うという考え方です。経済学的な言葉遣いで言えば、「財が同質で、多数の売り手と買い手が存在し、情報が完全で、参入・退出が自由な市場」のことです。

経済学の知見では完全競争市場で何が起こるかは分かっていますし、1社が支配する独占市場、2社が支配する複占市場でも、何が起こるかは非常によくわかっています。数学的に正しく何が起こるかをシミュレーションできます。

答えとしては、完全競争市場では超過利潤は消滅しますが、独占市場では超過利潤は存在し続けます。つまり儲かり続けると言えます。超過利潤というのは、リスクフリーレートよりも高いリターンという意味で捉えてください。リスクフリーレートは国債のようにリスクなしで得られるリターンのことです。(国債がリスクフリーか?はここでは議論するのはやめましょう。財政ファイナンスとかテーパリングとか言い出すときりがありません)

しかし、現実は完全競争市場でもないし、1社、2社しか企業がない業界もありません。現実は完全競争市場と独占市場の中間的な市場で、場合によって寡占でありその程度が違うと言えそうです。では、現実としての寡占市場ではどのような利潤の配分構造になるのか?それが知りたくなりますよね。

つまり、「上位8社が業界売上70%以上を上げる製造業界の利益率はそうでない製造業界の利益率の2倍である。」が現実世界で起こっていることが示されたことが画期的でした。寡占的な度合いが高いこと企業収益、利益率を高まるであろうことは分かっているわけですが、現実としてどの程度なのかが分かることは大事だということですね。

産業組織論初期の知見をもう1つご紹介します。「特定の業界では、①既存企業による絶対的コスト優位(特許など)、②明確な差別化、③規模経済性 がある場合に既存企業が新規参入者を引きつけることなく、持続的に、通常の競争レベルにある場合よりも高い価格付けが可能」というものです。少し戦略らしくなってきました。

これは今で言う「参入障壁概念」です。ポーターの言うファイブフォースの1つの要素ですよね。通常、供給曲線から明らかなように、高い価格付けが可能な場合新規参入が相次ぎ、生産量が増大します。そうすると、売れ残りが発生し、徐々に価格が下がっていくというメカニズムが働くはずです。

しかし、高い価格付けがなされているにもかかわらず、誰も参入してこないならば、価格が維持されます。顧客にとってはメリットが少なくなることは簡単にわかるわけですが、今いる企業にとってはずっと高い価格付けが可能ですのでメリットが大きいわけですね。

このように、産業にある特有の要素が、高い収益性と関係があることが産業組織論において調べ上げられていきました。

いわゆる「産業構造=Structure」が買い手と売り手の「行動=Conduct」、ひいて「産業全体の成果=Performance」、つまり収益性、効率性、イノベーションの創出度合いを決めるというSCPパラダイムが信奉され、それに見合った事実が発見されていくわけです。

産業の収益性に影響を与える特徴は「構造的変数」と命名されました。ポーターはファイブフォースモデルのことを構造分析コンセプトと言っていますので、この構造的変数が、ファイブフォースであり、戦略変数の元になるわけですね。

ファイブフォースにおける産業構造は①業界内競争の激しさ、②サプライヤーの交渉力、③顧客の交渉力、④新規参入の脅威、⑤代替品の脅威によって定まります。この5つフォースを自分が所属する業界で定義できれば、産業構造が定まり、それが業界の収益性の把握につながるわけです。

更に言えば、業界によって5つのフォースのどれが産業のパフォーマンスに効いてくるのかは違ってくるでしょう。また、企業によって、どの要素が大きく自社の成果に効いてくるかも違ってきます。

このような流れの中で、産業組織論の知見がポーターによって経営の世界に持ち込まれていくわけです。産業組織論における産業構造と構造的変数は、業界構造、戦略変数に名前を変えて使用されるようになりました。

90年代や00年代のマッキンゼー出身者はSPECフレームワークを好んで用いていました。SPCに「E=経済動向」を加えたマクロ環境分析の枠組みです。産業構造にその時の景気動向を加えたものが業界/企業の収益性に影響を与えるという考え方に基づいた分析を行うためのものですね。

上記のように見てくると、戦略立案において業界構造を分析する意味合いが見えてきます。

現実の市場は完全競争市場ではありません。しかし、完全競争市場や独占市場での価格と収益性のあり方はとてもわかりやすい。完全競争市場では超過利潤はすぐに消失し、独占市場では残存し続ける。

では、自分たちが所属する業界はこれら2つの市場からどの程度離れた場所にいて、収益性はどの程度なのか?それは将来変化するのか?自社はその構造の中で、どのような戦略変数に基づいて収益性を確保しているのか?

こういったことを把握するために、ファイブフォースを使った分析を行うわけですし、大企業であれば、SPECフレームワークなどを使って業界構造分析を行うわけですね。ポーター的には、こういった実証や実務的流れの中で、企業が採用する戦略を分類していったら3つの戦略、コストリーダーシップ、差別化、集中に行きついたということなのですね。

確かに理論から実証、発展という歴史から見ると上記のような流れが必然的に見えるわけですが、純粋に完全競争市場のロジックから説明することもできます。

もっとさっぱりと話ができますし、基本戦略とのつながりもわかりやすいと思います。何も考えずに戦略を分類したところで3つに集約する作業はすごい作業量ですよね。しかし、たぶん、そういうふうに基本戦略の着想は得られていません。

3つの分類の枠組みはあったうえで、戦略をそれに当てはめていったら、概ね分類できたということだと思います。では、3つの分類の枠組みはファイブフォースからどのように出てくるのか?

今一度、完全競争市場に立ち戻って考えてみましょう。

完全競争市場には4つの特徴がありました。①財の同質性、②多数の売り手と買い手の存在、③情報の完全性、④参入、退出の自由の4つです。ただ、その前にプライステイカーの前提という概念があります。価格受容者の前提というやつですね。みんな価格は提示された価格をそのまま受け入れる。交渉は存在しない。この前提が成立するための4条件でもあると捉えられますよね。

現実には、財は同質ではなく、売り手と買い手は業界によって数が限られており、情報は非対称で、参入規制や撤退制限があるわけです。

現実が完全競争のモデルに近づかない要因がいくつかあり、それが業界によって違う。その要因を壁のようにイメージして、構造と呼ぶ。ポーターがファイブフォースモデルを称して言う「構造分析コンセプト」は素直な発想で作られています。

そして、その構造において、典型的に収益を生じさせる要因が、大きくはミクロで言う代替性の問題、いわゆる競合関係の問題でしょうし、売り手と買い手の交渉力の問題であることは容易に気が付きます。

交渉力の問題は、プライステイカーの前提がいかにゆがむか?にクリティカルです。参加者は価格交渉を全くしない。完全情報でみんながすべての情報を知っているはずなので、世の中で一番安いところから買います。これが情報の非対称性やら、交渉の存在やら、参加者の制限などによって歪むということですね。

この2つの軸、代替性と交渉力をクロスさせると、ファイブフォースの出来上がりです。ロジックで考えると、ずいぶんシンプルです。

代替性とはまさに、競合の激しさですし(競争業者間の競争の激しさ)、それは参入障壁が低ければ低いほど、参加者が増えて激しくなってしまいますし(新規参入の脅威)、違うはずの財が同じような便益提供を行い、コストパフォーマンスが優れているなら困りますし(代替品の圧力)、サプライヤーがほとんどいなくて、自社が欲しい部材がなかなか買えないなら困りますし(サプライヤーの交渉力)、お客さんがほとんどいなくてなかなか買ってもらえないから困ります(買い手の交渉力)よね・・・。

そのうえで、現実と理論のコストビヘイビアの乖離を加えて、モデルは精緻化されています。

繰り返しになりますが、ポーターの考え方では、ミクロと現実の乖離が問題になります。これは誰でも指摘しています。しかし、あまり指摘する人がいないのが、コストビヘイビアにおける経済学と現実の乖離ですね。当たり前すぎるからかもしれません。

経済学ではコストは「逓増」すると考えます。「たくさん作れば作るほどコストは上がる」前提です。だから、収穫は逓減し、最適生産点が存在する。多数の参加者の同じ振る舞いを経て超過利潤はゼロとなる。利潤はリスクフリーレートにしかならない。

しかし、現実の製造業はモデルと違って、規模の経済性が存在し、経験曲線なるメカニズムもあることがわかりました。この2つの要因によって、完全競争市場と現実のコストビヘイビアは乖離します。

多くの製造業において限界費用はゼロに近づくわけです。最適生産点など存在しない。作れば作るほど限界費用と平均費用は低下します。

名前は挙げませんが、「IoTによって効率が向上し限界費用がゼロに近づく社会がやってきた!」と言っている本がありましたが、ミクロのコストビヘイビアと、その後の経営学における理論と現実のコストビヘイビアの乖離の研究がすっとばされて、「IoTで効率性、生産性が極限まで高まり限界費用はゼロに近づく」といったことが書かれていてびびります。

ほとんどの製造業では限界費用はゼロに近づくんですよ・・・。効率っていう言葉の意味がわかっているんですかね。好意的にとれば社会全体の効率なんでしょうけどね。ミクロの教科書をはじめから読み直したほうがいいと思うんですよね。「ジャーナリスト」と言われる人たちの本ですから仕方ないんでしょうけど。

似たような誤解にまみれた本は過去にも出ています。

ソニーコンピュータエンタテインメントが出てきたとき、プレイステーションが出てきたときですね。

この時に、「IT産業では収穫は逓増する!」と言った経済の先生がいました。収穫逓増はメーカーだよ、というまっとうな突っ込みをした人はほとんどいません。規模の経済、経験曲線はそもそも収穫逓増をすでにもたらしていたんですよ・・・。

ネットワーク外部性は確かにあるわけですが、コストがネットワーク効果による便益の増大スピードにあわせて増えてしまったら打ち消されますよね・・・。ポーターの発表当時はネットワーク外部性はまだ研究途上ですので、ファイブフォースには盛り込まれていません。最近流行りの「プラットフォーム」はネットワーク外部性を踏まえたものになります。

まあ、いいでしょう。

さて、完全競争市場の前提条件に、コストの逓増モデルも含まれるのですが、あんまり誰も言わないんでね。買いて見ました。

そうすると、「コスト逓増モデルも含んだ完全競争市場」からどれぐらい離れているか?でファイブフォースモデルは規定され、基本戦略はその延長上に出てきます。

差別化は財の同質性の裏返しですよね。更に言えば、ポーターはここに情報の非対称性も織り込んでいます。差別化された商品とは、買い手から認知されるユニークネスであり、それはロイヤリティが結果として生じると言っています。ブランドロイヤリティは情報の非対称性をポジティブに埋める概念ですよね。

買い手は買う製品のことは100%理解できるわけではない。サーチコストもかかる。だから、漠然と抱いているイメージで埋め合わせて、勝手に安心して買う。これが情報の非対称性をポジティブに埋めるブランドロイヤリティですよね。

これがネガティブに埋まるのが風評被害です。福島産の農作物に対する風評被害がひどいですが、いわゆる普通の人は自分で調べることなどできないから、メディアが垂れ流すネガティブなイメージで情報を埋め合わせ「買わない」という判断をする。こういう人が多い状態を風評被害と言いますよね。

コストリーダーシップは、まさに規模の経済と経験曲線ですからね。通常想定されるコストビヘイビアと異なる振る舞いが製造業ではよく見られました。だからこそ、ここまで世界中にモノがあふれる素晴らしき世界が実現したといってもいいでしょう。経営をしていればわかりますが、規模の経済や経験曲線の効果がない領域も相当たくさんあり、なかなかスケールできないという悩みは一般的ですからね。

集中は買い手を絞り、売る相手の数を減らすことで自社の競合の数をもっと減らせるケースがあることを示しています。売る人は少なく、買い手が多い状況を狭い範囲で作るわけです。交渉力を狭い範囲で最大化することを目指していると捉えられます。

実証的研究と発展の歴史からファイブフォースを捉えてもいいのですが、そうすると、基本戦略とのつながりがよく見えなくなってきますからね。これぐらい通してみてみると、ファイブフォースと基本戦略がつながっていることが見えてくるでしょう。

ちょっと長く書きすぎましたね。それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。


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