米中の「新しい軍事関係」は日本にとって「最悪のシナリオ」か?【ビジネス塾】
ITライフハック / 2014年4月11日 9時0分
中国を訪問したヘーゲル米国防長官と習近平国家主席が3月9日、会談を行った。前日には、常万全国防相との会談も行われている。
会談を報じるマスコミの論調は「尖閣めぐり米中国防相が火花」と、米中が侃々諤々(かんかんがくがく)論争を演じ、対立したという見方のものが多い。これはウソではないが、会談内容のすべてでもない。
実は、対立の裏で、日本にとっては見過ごせない事態が進んでいる。それは何だろうか。
■マスコミは内容の半分しか報じていない
まず、報じられているように、中国は東・南シナ海に対する自国の領有権を主張、日本やフィリピンの態度を非難した。自国からは「仕掛けない」としつつ、「必要ならば武力で領土を守る」とも述べており、従来通りの強硬な態度である。
これに対して米国は、尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲であることを明言した。つまり、中国が尖閣諸島に侵攻すれば、米軍を出動させるということである。
大部分のマスコミ報道はここまでで終わっている。確かに、米中は意見の一致を見ず、対立しただけかのようだ。読者は「米国は尖閣諸島を守ってくれる」と意を強くする人もいただろう。しかし、これは会談の内容のうちせいぜい「半分」にすぎない。
■「新しい軍事関係」とは
報じられていないのは、米中間で軍事的な新しい対話の枠組みができつつあることについてである。
習主席は会談で、「新しい形の軍事関係を発展させなければならない」と述べた。米中の軍事交流や偶発的な衝突を避ける仕組みをつくろうというものだ。内容は、大規模な軍事演習を行う際には互いに事前通報すること、米国防総省と中国国防省との間でアジア太平洋地域の安全保障に関する対話を行うことだ。
中国は、ヘーゲル国防長官を空母「遼寧」に乗艦させるサービスまで行っている。もっとも、この空母はまだ実戦配備前のもので、中国国内には乗艦させたことについて「過剰サービス」との批判もあるようだが。
「事前通報」の合意とは、軍事的衝突が起きないよう「互いにうまくやっていきましょう」ということだ。「アジア太平洋地域の安全保障に関する対話」とは、「アジア太平洋は米中で相談して取り仕切っていきましょう」という意味にもとれる。その場合は当然、日本はその対話には関係なく、逆に、米中が「仕切る」対象に含まれる。
■米中の「新しい大国関係」
以上のようなことを書くと「曲解ではないか」と言う人もいるだろう。だが、そうとばかりも言い切れない。
昨年6月、訪米した習主席は、オバマ大統領に「新しい大国関係」をつくろうと呼びかけた。オバマ大統領は即答しなかったが、11月になって、ライス大統領補佐官はこれを受け入れるとの発言を行っている。
「新しい大国関係」とは、「新しい軍事関係」よりも幅広い概念で、簡単にいえば「米中による世界共同支配」である。第二次世界大戦後の、米ソの冷戦体制にも似ているが、異なるのは、米中の経済関係が強いので「何事も相談して」というところだ。ライス発言の数日後に起こったのが、中国による一方的な防空識別圏の設定で、米国はこれを黙認した(口では批判しているが)。「新しい軍事関係」は、すでに動き出したといえよう。
他の国家間関係と同様、米中関係も「戦争か平和か」というほど単純ではない。平和であっても揺さぶりをかけることもある。「新しい大国関係」で合意していても、さまざまな摩擦は続く。
問題は、米中関係が「新しい大国関係」に向かって動いていることについて、ほとんどの日本人が知らないか、知っていても沈黙していることである。
1970年代初頭までの自民党政権は、台湾国府を支持して中国大陸の政府とは国交がなかった。米国がそのような外交政策をとっていたからである。だが、1971年にキッシンジャー大統領補佐官が突如訪中し、日本(佐藤栄作内閣)は「頭越し」される憂き目にあった。次の田中角栄内閣は、逆に、なりふり構わぬ国交回復に走り、尖閣諸島問題などを置き去りにする愚を犯した。
表面的な米中対立だけに目を奪われ、背後で進むことを見誤ると、これと同じ失敗を繰り返しかねない。これは、投資活動も同じである。
(編集部)
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