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出荷量減が続く「泡盛」 売上高1.3倍を実現した、酒造所30代社長の「売り方」改革

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年10月2日 6時0分

 自社で作ったカラギ酒に、田嘉里地区に隣接する喜如嘉地区の農家が生産する生姜や自家栽培の島唐辛子などを使った特製シロップを合わせ、完成する。シロップは国頭村のカレー店、ロゴやラベルは田嘉里集落に事務所を構える事業者が手掛け、全てやんばるの人たちで作り上げた。炭酸割りや水割りがおすすめという。カラキと生姜の相性が良く、スパイシーな香りとさっぱりとした味わいは飲み心地がいい。

 40以上の泡盛酒造所がそれぞれ多彩な銘柄を作り、競合が多い中、価格競争に陥らない商品を考えた結果の商品だった。年間生産量は約1000本。毎年全て売り切れる。スパイスに馴染(なじ)みのある若者や外国人観光客に人気で、これまでとは異なる客層の開拓にもつながっている。今後もやんばる産のシークワーサーやコーヒーなどを原料にシリーズ化していく考えだ。

 「私たちが担ってきた役割は、地域の人たちで酒を造ることで、人と人をつなげること。その対象はこれまで地域の『中』がメインでしたが、その視野を『外』にも広げています。創業の原点を大事にしながら、変わらない使命を果たしていきたいです」

●直販の比率が「8割超」に増加 もてなす酒造所に

 やんばるの地に太い根を下ろし、地域密着を掲げて「外」からのリピーター獲得にも成功している同社。コロナ禍で年間6000万円ほどに落ち込んだ売上高は8000万円まで回復した。池原社長が入社して以降でピークだったという10年ほど前の売上高1億2000万円が当面の目標だという。

 以前は全体の5割近くが問屋を通した販売だったが、今はリピーターが増えたことで直接販売の比率が全体の8割を占める。2020年にオープンした新しい直売所やオンラインショップでの購入者が増えているという。「これまで問屋さんのおかげで広く流通に乗せることができていた面はありますが、私たちのような小さい酒造所にとっては直接販売の比率が高まると経営がより安定します」。価格競争を避けることやブランド力の向上、新たなファンの獲得などメリットは多い。

 離島県であり、独特な文化を持つ沖縄の酒だからこそ、池原社長は自身が考えるより良い泡盛の「売り方」についてこう話す。

 「泡盛は沖縄の人の生活文化やアイデンティティを背負って成り立っているお酒なので、そこから人を抜いてしまうと、なかなかその良さが伝わらない。なので、私たちが外に出て積極的に販売していくというよりは、やんばるに来る方をもてなす酒造所になっていきたいと思っています」

 直売所やオンラインショップで自社商品以外のやんばるの特産品を販売したり、今後は行政の補助金も活用してやんばるの食文化を体験できる観光ツアーを企画したりするなど、「地域のために」という原点は全ての取り組みに通底する理念だ。このブランド戦略は、やんばる酒造のように地域に根差した酒造所が沖縄県内の各地に点在する泡盛業界全体にとっても、再興に向けたヒントになるかもしれない。

長嶺真輝(ながみね・まき)

沖縄拠点のスポーツライター、フリーランス記者。 2022年3月まで沖縄地元紙で10年間、新聞記者を経験。 Bリーグ琉球ゴールデンキングスや東京五輪を担当。金融や農林水産、市町村の地域話題も取材。

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