「失われた25年」今こそ直視すべきその根源理由 必要なのは「働き方改革」ではない
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年11月14日 9時0分
その上常に「少人化」を目指し、余った人員が出れば「他の仕事をしてもらう」ことを是としている。そのために「多能工化」を普段から進めており、自分の得意な領域にとどまることを許されない。
「他の仕事をしてもらう」といえば多少聞こえはよいが、目指しているのは生産性の向上、つまりは人員数の削減によるコストダウンである。そしてこれは、余った人員を解雇するのではなく「他の仕事」に回すことができる、つまりずっと成長を続けているトヨタだからこそできることでもある。
社員の雇用を何より重視するトヨタが、一方でなぜここまで“優しくない”手法をとるのか?
トヨタが特に日本国内においては雇用の維持を第一に考えていることは広く知られている。豊田氏は「国内生産300万台体制は石にかじりついてでも死守する」と繰り返し述べている。トヨタ本体のみならず、そこに連なる膨大なサプライヤー(トヨタでは「お取引先様」と呼ぶ)で働く人たちの雇用を守ることがトヨタの使命だと考えているのだ。
ところが一方で、トヨタ生産方式は、大野耐一氏の時代から「少人化」を是としている。これはなぜだろうか? 「雇用の維持」と「少人化」はなぜ矛盾しないのか?
●厳しいWin―Win
人間には、付加価値の高い仕事をし、さらにその付加価値を上げていこうと努力する、という意欲と能力がある。ところが管理者の側が、それを発揮させず、付加価値の低い仕事をさせ続ければ、それはまさに人間性を尊重していないことになる。
そして、社員に生産性の低い仕事をさせ続ければ、結局は企業としての生産性そして収益性も低いままとなり、企業は社員に十分な給料を払うことができなくなる。長期的には、雇用も維持できなくなる。これも人間性の尊重にもとる、とトヨタは考えているのだ。
トヨタ生産方式とは、「少人化」という圧力を現場に常に与え続け、トヨタの競争力を上げ続けることが、結果として労働者の雇用を維持し、給料を上げることにもつながる、という、いわば「厳しいWin―Win」を目指す仕組みなのだ。
そしてそれは同時に、「他の仕事」が常にある、つまり常に成長し続けていることが前提であるという意味で、経営者に対しても厳しい要求を突きつける。少人化させながら、「他の仕事」が用意できなければ、解雇するしかない。つまり従業員と経営者がともに「厳しいWin―Win」にコミットする、のがトヨタ生産方式の本質なのである。
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