自衛隊に駆けつけ警護できる戦闘能力はない その1 情報編
Japan In-depth / 2016年11月1日 18時0分
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
昨年の安保法制改正にともない、自衛隊がPKO活動などで他国の部隊や民間人などが襲撃を受けた際に、これを、武力を持って救援する、いわゆる「駆けつけ警護」が可能になった。安倍首相は、自衛隊は軍隊と同じであり、法律さえ変えれば「駆けつけ警護」といった「かんたんな任務」はこなせて当たり前と思っているのだろう。
だがいくら法律が変わっても自衛隊にその能力はない。自衛隊は軍隊として実戦ができない組織だ。自衛隊の現状のまま「駆けつけ警護」をやらせれば他所の国の軍隊の何倍もの死傷者を出すことが予想される。
手足がもげ、一生義手義足、車椅子で生活する、あるいは視力を失って白い杖をついて一生を終わる隊員が続出する可能性がある。政治と行政の無策で戦死者、重度の身体障害者を量産するだけに終わるだろう。それらは政治家と防衛省が真摯に「軍隊」として戦う体制を構築すれば防げる被害だ。
政治家、特に与党の政治家たちには脳天気にも自衛隊=軍隊という誤った認識しか持っていない。単に国益とか、国際貢献とか口当たりのよい言葉に酔って実戦を安易に考えているのではないか。
筆者は駆けつけ警護自体を否定するものではない。国益を鑑みて、PKOやPKFに部隊を出すことは奇異なことではない。また軍事作戦において犠牲がでることは当然であるとも考える。
だがそれは自衛隊が軍隊と同等の能力と当事者意識を持ち、政府と防衛省が、現場の部隊が遭遇するであろう危険に対して最大限に対策を取らせてはじめて行うべきだ。自衛隊の現実の戦闘をあたかも映画かゲーム程度の認識で、安っぽい国家意識や愛国心から安易に自衛隊を戦闘に投入し、隊員を犬死にさせるべきではない。
率直に申し上げて、自衛隊と軍隊はナリが似ているだけで、全く異なる組織だ。それは自衛隊が全く実戦を想定していない、パレード用の軍隊でしかないからだ。故吉田茂はかつて、「自衛隊は戦力なき軍隊である」と述べたが、自衛隊の実態はその言葉そのものである。
警察予備隊発足当時からソ連崩壊に至るまで、自衛隊が期待されたのは西側の一員としての一定規模の「軍隊らしき」組織として存在することだった。商売の見せ金のようなもので、実際に戦争をすることは期待されてこなかった。つまり、なんとなく「軍隊らしい」存在として西側世界の軍事力のカサを上げる存在であればよく、実戦を行うことを全く想定してこなかった。
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