トランプ思想の軸は? まだ見えない政治哲学
Japan In-depth / 2016年11月19日 15時39分
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
外務省をはじめとする日本の官僚にとっては、来年1月20日のトランプ政権発足までの約1ヶ月は、これまでになく頭の痛い厄介な月日になるだろう。まさかの大逆転で、ヒラリー・クリントン氏が敗北したため、各省庁とも外交チャネルを一から作り直さなければならないからだ。
アメリカでは政権が代わると、閣僚や官僚トップ、中堅どころが総入れ替えになり、その数は数千人に上るとされる。さながらワシントンD.C.の民族大移動が行われるのだ。閣僚や次官、次官補などの幹部は議会の承認が必要なので、1月20日までに全員が決まることはまずない。大体8割ぐらい決まれば“良し”とされるほどである。
■新たな人脈構築の苦労も
特に今回の場合は、オバマ大統領の後を継ぐとみられた同じ民主党の本命ヒラリー・クリントン氏が敗北したため、その影響は大きい。ヒラリー氏なら同じ民主党の人脈の中から発掘できる。オバマ大統領も支持を約束していたから政権移行はスムーズに出来るとみられていたし、ワシントンにある各国の大使館も新たな人脈作りにそれほど苦労をしないで済んだだろう。
しかし今回選ばれたトランプ新大統領はアメリカの政治経験、軍隊経験を持たない、いわば一匹狼的な不動産ビジネスマンだ。その上、トランプ氏の思惑、考え方は選挙中の発言を聞く限りTPP反対、NAFTA(北米自由貿易協定)にも否定的だし、メキシコ国境に壁・フェンスを作り移民を入れない、不法移民のうち200-300万人に上る犯罪歴を持つ者も直ちに追い返すという激しさだ。
■今後は人事案がカギに
アメリカが戦後掲げてきた自由貿易、市場主義、移民受け入れなどの価値観には否定的で、保護主義思想、さらに女性蔑視や人種的偏見の発言も多い。アメリカの掲げてきた自由、民権、公正、包容力のあるアメリカ的思想を否定し保護主義的であり偏狭な人種差別さえ感じられる発言が多い。日本に対しては、世界を守る軍事的負担が少ないとか、農業の関税、特に牛肉に課している関税38%は高すぎるので、現行の対米自動車の輸出関税2%を牛肉の税率と同じにすることも考えるなどと発言。これまで積み上げてきた貿易ルールなどにも批判的だ。いわばアメリカ・ファーストの考え方でアメリカが有利となるようにルールを改正し、アメリカの経済をよくし、雇用を増やすと述べている。今後その方針を強行するか、修正しつつ海外とうまく調和してゆくかは“政権移行チーム”が選択する人事案にかかってくる。
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