【大予測:医療】医師・看護師のアジア交流加速
Japan In-depth / 2016年12月29日 18時0分
上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)
「上昌広と福島県浜通り便り」
2017年が明ける。2016年は医療をめぐり、多くのニュースがメディアを賑わせた。
高齢者の医療費負担増、がん免疫治療薬オプジーボの高額な薬価、神奈川県の大口病院での患者死亡事件など、ご記憶の方も多いだろう。何れも暗いニュースばかりだ。一体、我が国の医療で何が起きているのだろうか。
私は、戦後に確立された医療制度が機能不全に陥りつつあるのだと思う。特に、国民皆保険制度は崩壊寸前だ。この制度が確立したのは、国民健康保険法が改正された1961年。これ以降、医師と患者が希望すれば、一部の自己負担を除き、医療費は公費(保険料と税金)で賄われるようになった。国民は、風邪から臓器移植まで、有効性が証明されている全ての医療を公費で受けることができる。
高齢化が進めば、医療費は増える。その伸びは保険料や税収の伸びより大きいから、医療費は足りなくなる。これに対応するため、政府は赤字国債を出して、医療費に充ててきた。このやり方は、いつまでも続けられない。この意味では、現行の国民皆保険制度は持続可能ではない。
この制度を維持するには、医療費の公費負担に一定の枠を設ける「免責」しかない。つまり、一部の患者に有効な医療行為であっても、「国にお金がない」という理由で、公費では支払わないようになる。これは厚労省が嫌がる。それは、「免責」は「混合診療の解禁」を伴うことになるからだ。厚労省の権限を損ねかねない。
厚労省の権限の源泉は価格統制にある。全ての医療行為の価格を一物一価で決めるのだから、その権限は絶大だ。価格決定には、中央社会保険医療協議会(中医協)という組織を通じるため、日本医師会などの業界団体や診療報酬ネタで儲ける業界誌もご相伴にあずかる。混合診療が解禁されれば、医療機関と患者・保険者の「市場取引」で価格が決まる。厚労省・業界団体・業界誌が作り上げた利権構造に風穴が空きかねない。
一部の有識者は「市場原理を医療に持ち込むな」と反対するが、それはバランスの問題だ。現在の日本のように、国家統制を強化し、すべての経済行為の価格を官僚が決めることは弊害が多い。利権が生じ、システムが脆弱化するからだ。
その証左に、我が国の診療報酬は歪んでいる。例えば、心肺停止で救急病院に担ぎ込まれた患者に、30分間心臓マッサージを行った場合の診療報酬は2500円だが、風邪の患者を3分間で診療すれば4000円程度を請求できる。この差は、勤務医と日本医師会の政治力の差を反映したものだが、一般国民の想像を超えている。医療ニーズは高まるのに、価格を通じた資源の配分は全く機能していない。こんな出鱈目を続けていれば、早晩、日本の医療は立ちゆかなくなる。
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