【大予測:医療】医師・看護師のアジア交流加速
Japan In-depth / 2016年12月29日 18時0分
実は、若夫婦が日本を出たいと思った理由は、これだけではない。きっかけは新専門医制度を巡る議論の迷走だ。新専門医制度とは、大学教授たちが中心となって、初期研修を終えた医師たちの教育カリキュラムの見直しを図ったもので、厚労省も支援した。
この改革は、お題目こそ立派だったが、実態は、専門医育成と医師偏在問題を絡めて、大学病院で働かなければ、専門医資格を取れなくしようとするものだった。つまり、大学医局の復活を目指したものだった(小稿「新しい内科の専門医制度は最低だ」ハフィントンポスト日本版2016年2月11日)医局による若手医師の差配は、統制による利権分配という点で、中医協を介した診療報酬の決定と同じ構造だ。
大学教授と厚労省が当初、提示した枠組みで、新専門医制度が実施されれば、若手医師夫婦は、自分で勤務地を選択できなくなる。教授の意向次第で、福島県の被災地で働くことはできなくなるかもしれない。これは、彼らだけでなく、医師不足にあえぐ福島県浜通りの地元住民にとっても不都合だ。利益を得るのは、医局を仕切る大学教授たちだけだ。
彼らは、この問題に立ち向かった。新聞の読者寄稿欄やウェブメディアなど、さまざまな媒体で、自らの意見を発表し続けた。さらに、二人の共著で米国の医学誌に論文を投稿し、受理された。塩崎恭久厚労大臣が、彼らに意見を求めたこともある。
ただ、医学界を仕切る教授たちには、まったく通じなかった。「そんなに批判ばかりしていると、君たちの将来にとってよくないよ」と「忠告」する人まで現れた。彼らには「専門医資格を盾にとり、徒党を組んで、若手医師の稼ぎの上前を跳ねようとしている」ように映った。
読者の皆さんは、「医師免許さえとれば、将来は安泰だ」とお考えの方も多いだろう。実態は、そんなに甘くない。確かに、これまでは医師免許さえあれば、食いっぱぐれることはなかった。ところが、今後はそんな保証はない。私は平素より、「医師は肉体労働。寿命は短い。若いうちから、セカンドキャリアを考えるように」と指導している。今後、益々、この傾向は強まるだろう。
それは、冒頭でご紹介したように、我が国の医療制度が崩壊しつつあるからだ。これまで、我が国の医療現場では、この問題を議論する必要がなかった。それは、我が国の診療報酬が高かったからだ。診療報酬は、厚労省が、全国一律に決める公定価格だ。物価が高い東京でも医療機関を経営できたのだから、地方ではさぞかし儲かっただろう。
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