「尖閣安保適用」は米のリップサービス
Japan In-depth / 2017年2月10日 7時0分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・「尖閣諸島は日米安保の対象」は米の日中双方へのリップサービス。
・米は尖閣に介入する気無し。そもそもエスカレーションを許さない。
・日本政府にとってもプロパガンダとなっている。
■「尖閣は日米安保の適用対象だ」の真の意味
最近の日米会談で常に言及される語句がある。「米国が『尖閣は日米安保の適用対象である』と明言した」がそれだ。尖閣諸島は日本の施政権下であり日米安保の対象地域であると米側は毎回発言し、ニュースとなり報道される。
これはトランプ新政権との会談でも変わらない。今月3日のマティス国防長官来日でもそのような発言がありニュースとなった。2月10日に予定される日米首脳会談でも「日米安保の適用地域と発言するのでは」と予想されている。だが、尖閣への安保適用言及に意味はあるのだろうか?
残念だが、発言には何の意味もない。日本相手のリップサービスに過ぎないからだ。米国は尖閣問題に関して日中双方にリップサービスをしている。何の価値もないものであり、真に受けるものではない。
■米国は尖閣に介入しない
そもそも、本当に米国は尖閣での衝突に介入してくれるのだろうか?それはNOだ。米国からすれば尖閣はどうでもよい無人島である。日中はいずれも血眼になり、「自国の島である」と主張している。だが、そこには米国の利益はない。
実際のところ尖閣には何もない。米国どころか当事者である日中にとっても争うべき現実的な利益はない。経済的にも島や周辺海域にはペイするほどの資源はない。海底資源は経済的に間尺に合わず、漁業資源は既に日中の入会(いりあい)として解決済だ。軍事的にも何の価値もない。南シナ海の岩礁のように飛行場や港湾を作れる島ではない。あるのは日中ナショナリズムの衝突だけだ。地図の上で島をどの色に塗るか。尖閣と書くか、釣魚台と書くか、だけの話である。
米国からすれば、他人の離婚調停や親権争いのようなものだ。当の本人たちは必死である。だが、周りからみれば「どうでもよい話」でしかない。そんなことで米軍が血を流すのは馬鹿らしいと考える。これには前例がある。米国はフォークランド紛争には関与しなかった。最も親しい同盟国でも領土問題は馬鹿馬鹿しいとして関与しないのである。
尖閣はさらに関与し難い。日中双方とも関係が深いので片方に肩入れしたくないからだ。米国にとって日本は安全保障での同盟国だが、中国も経済面では自由貿易のチームメイトであり、最大のパートナーである。そこで日本に肩入れすれば「領土問題に介入した」と中国に恨まれ、肩入れしなければ「同盟国のくせに何もしない」と日本に恨まれてしまう。
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