象徴天皇制を参考に? 金王朝解体新書その7
Japan In-depth / 2017年7月5日 18時0分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・金日成から金正日への権力世襲は早い時期から決定していた。
・金正日は3代世襲を躊躇し、象徴天皇制を参考に一族の権威温存を図ったとの見方も。
・しかし、幹部離反もあり金正日は金正恩への世襲を決断せざるを得なかったという。
朝鮮戦争の経験から、北朝鮮の初代国家元首であるキム・イルソン(金日成)が、ソ連に頼っての社会主義国家建設という路線を見直し、チュチェ(主体)思想と称する、独自の一国社会主義に傾斜したことは、前回までに述べた。
そして、キム・ジョンイル(金正日)への権力の世襲は、かなり早い時期からの決定事項であったようだ。
キム・イルソンは1994年に他界するが、最晩年、少数の側近に対して、
「自分の後継者が、もしも主体思想に基づく路線から逸脱するようなことがあれば、拳銃で射殺せよ」
と語っていたとされる。
色々なことが言い得るけれども、日本的な感覚での「権力の世襲」とはややニュアンスが異なるように思えてならない。
一国社会主義建設を成し遂げるのは、自分一代では難しい。そうなると、思想の伝承という観点からは、自分の遺伝子を継ぐ者こそもっとも信頼できる−−キム・イルソンがこのように考えた、という推論と矛盾する証言などは、今のところ見当たらない。
一時期我が国の論壇では、朝鮮半島は儒教の伝統が根強いから、権力の世襲が容易だったのだ、という議論が人気を博し、北朝鮮の体制を「儒教共産主義」と呼んだ人もいた。
しかし、前にも紹介した韓国人ジャーナリストのヤン・テフン(梁泰勲)氏は、この議論を一刀両断する。
「共産主義の国で権力が世襲されるだなんて、韓国人の僕が聞いたって呆れかえるような話でして、儒教の伝統は、共産主義とも世襲とも関係ありませんよ」(『僕は在日〈新〉一世』平凡社新書より抜粋)だそうである。
彼に言わせればまた、韓半島(朝鮮半島)に世襲の伝統があるという発想自体が誤解で、歴史をひもとけばヤンバン(両班)と呼ばれる特権階級は存在したが、親が国務大臣なら子供も国務大臣になれる、というようにはなっていなかったという。
しかしながら現実には、3代にわたって権力が世襲された。この点についても、最近になって韓国の情報公開が進んで、興味深い証言が伝わってくるようになった。
2代目となったキム・ジョンイルは、指導部の中に、中国のように市場経済に傾斜した方が国益にかなう、という考える者が増えてきていることは承知していた。とは言え、自分の権力基盤が「チュチェ思想の伝承」にある以上、安易な路線転換はできない。
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